「部下を育てる上司」を育む

 ここで問題となるのが上司です。なぜなら、実務を最初に評価をするのは上司だからです。「結果に文句を言うだけの上司」を「部下を成長させる上司」に変えることが大きな課題になります。

 誰もが部下を成長させる上司の方が良いのは分かっているはずですが、成果主義を運用している場合、どうしても結果に文句を言うだけの上司に陥りやすいのが現実じゃないでしょうか。部下を育成することは上司の重要な役割の一つですが、日々の仕事の中では以下のような状況に陥りがちです。

  • 十分に目標も話し合わずに、仕事を部下に丸投げする
  • 後になってケチをつける
  • 納期に遅れそうになると大騒ぎして自分で対処する
  • 「やっぱり自分がいなければダメだ」と自己満足する

 PDCA(計画・実行・検証・改善)サイクルでいうと、「変えられる未来」を議論するPとDのフェーズがおろそかにされ、部下の成長に貢献する要素もほぼ見当たりません。「一生懸命やっている」と思っている部下の心は傷つき、自分を責めるようになって、時にはメンタルヘルスの問題にまで発展することにもなりかねません。

 「仕事を部下に丸投げ」「後からケチをつける」「自分で対処する」ような上司が多いのはなぜでしょう? それはその方が楽だからじゃないでしょうか。しかも、仕事ができる優秀な社員だった人ほど、そのワナに陥りがちです。なぜならば、自分で対処することでいち早く問題が解決できるし、自分の優秀さを示すことができるからです。

「やれる」と「やれるように教える」には大きなキャップ

 プロスポーツでは「名選手、必ずしも名将にあらず」とよくいわれますが、同じことが一般的なビジネスにも当てはまります。通常、実務にたけた優秀な人が昇格して上司になります。でも「仕事ができる優秀な社員」が、必ずしも「優秀な上司」になるとは限らないのです。それは自分で「やれる」ことと「やれるように教える」ことには大きなギャップがあるからです。

 全体最適のマネジメント理論「TOC(Theory of Constraints:制約理論)」の開発者で、私の師匠である故エリヤフ・ゴールドラット博士は、これをシンプルな例で示していました。ある時、博士は「ユージ、君は靴ひもを結べるか?」と尋ねてきました。「もちろんだ」と答えると、博士は「じゃあ、その結び方を人に説明することはできるかい?」と返してきました。

 このエピソードが象徴しているように「やれる」ことと「やれるように教える」ことには大きなギャップがあります。本人が「できて当たり前」だと思っているような暗黙知を他人に伝授することは難しいのです。「仕事のできる優秀な社員」が必ずしも「優秀な上司」になれない理由はここにあります。むしろ、現場では優秀だった人ほど、部下に欠けている知見が何であるのかを理解できないために指導が苦手であるといえるかもしれません。