世界で1000万人が読んだビジネス書の金字塔『ザ・ゴール』。この書は既成概念を打ち破り、目覚ましい成果を出す「ブレークスルー人財」を育てる教科書でもある。著書エリヤフ・ゴールドラット博士の愛弟子で、全体最適のマネジメント理論「TOC(制約理論)」の世界的なトップエキスパートの岸良裕司氏が、ブレークスルー人財の育成法を分かりやすく、実践的に解説する。今回はブレークスルー人財を育むための人事評価制度の在り方を考える。
(写真:123RF)

 今回のコロナ禍で突然、経営環境が厳しくなったという企業も少なくないでしょう。前回も強調しましたが、経営危機から脱する唯一の処方箋は目覚ましい成果を生み出す「人財」を育てることです。しかし人事評価制度が、それを阻害しているケースが多いのが現実です。今回は、ブレークスルー人財育成に不可欠な人事評価の仕組みを考えてみましょう。

目標管理制度が人財の育成を阻害する

 バブル経済が崩壊した直後の1990年から2000年代前半にかけて、多くの日本企業が欧米型の成果主義を導入しました。併せて、MBO(目標管理制度)を導入し、今でもこの制度を運用している企業も多いでしょう。

 ご存じのように、MBOは現代経営学の父とも称されているピーター・ドラッカー氏が提唱した人事評価制度です。原典である著書『The Practice of Management』(日本語版のタイトルは『現代の経営』)では「Management by Objectives and Self-Control」と表現していました。直訳すると「目標と自己統制による経営」です。本来は、社員自らが目標を掲げて、その達成に向けて自律的に行動することで、組織の成長につなげるためのマネジメント手法だったのです。しかし、ほとんどの日本企業において「and」以降の部分が抜け落ちて運用されているのが現実です。

 不幸なことに日本では、この制度とともに成果主義ブームが広がっていきました。「人事評価=個人の成果=目標の達成度」という図式になったため、あえて高い目標を設定しようとする社員がいなくなってしまったのです。毎年、「人事評価を下げたくない→目標設定を低くする→働き方に何も変化がない」というサイクルが回り続けて、個人も組織も成長の機会を逃してきたのです。

高い目標が「内発的動機付け」を生み出す

 目標を低めに設定してしまうと「できて当たり前」のことをする毎日が待っています。だから仕事がつまらなくなりますし、場合によっては苦行とも思えてくるでしょう。幼い頃に誰もが遊んだ輪投げを想像してみてください。的となる棒が手の届く範囲にあったら、何回投げても失敗はしませんよね。だからといって、これが楽しいと思えるでしょうか。ビデオゲームだってクリアが難しいからこそ、お金を出して遊んでいましたよね。

 目標が高ければ、それに到達したときの満足感や達成感が次なる目標へのモチベーションにつながります。たとえ到達できなくても、従来よりも成果物が大きくなるので、自分の成長を実感して仕事のやりがいや張り合いが生まれてくるでしょう。これは経営学や心理学で「内発的動機付け」と呼ばれているものです。報酬のように外から誘発されるのではなく内から起こる意欲のことで、行為そのものが目的となるようなモチベーションのことです。

 経営環境が厳しくなった今こそ、本来の意味でのMBO(目標管理制度と区別するために「MBO-S」と表記するケースも多い)に立ち返って、目覚ましい成果を生み出す人財が活躍できる人事評価制度が必要とされています。高い目標がなければ人は成長しませんし、組織の成長にもつながらないのです。

「変えられる未来」をマネジメントせよ

 MBOに限ったわけではありませんが、一般的な人事評価制度がブレークスルー人財の育成を阻害している最大の要因は、過去の結果を評価の判断材料にしている点です。これは「変えられない過去」をマネジメントしていることにほかなりません。「変えられる未来」をマネジメントしなければ、個人と組織の成長にはつながりませんよね。

 それでは、人の成長を促すためには、どのような評価指標があればよいのでしょう。それは、過去の「成果」や「結果」に代えて、それぞれの目標に対して、どれだけ近づいたかという「成長」の進捗を測ればよいのです。「成果主義」ならぬ「成長主義」です。

 以下では、『ザ・ゴール』の著者であるエリヤフ・ゴールラット博士が開発したマネジメント理論「TOC(Theory of Constraints:制約理論)」の知識体系に含まれており、私たちの会社でも実際に運用している人財マネジメント法を、順を追って説明していきます。既存の人事制度と並行して、個々人の成長と内発的動機付けの創出を促進する仕組みとして取り入れることも可能です。なかでも、上司と部下の1on1ミーティングで活用するのが効果的でしょう。