
「TOC(Theory of Constraints:制約理論)」の知識体系に含まれている人材マネジメント法「成長ナビ」を紹介した前回の記事が掲載されると、人事に関わる方々から数多くの反響がありました。以前、同様の趣旨の講演を聴講いただいたエキスパートの方からは「変えられない過去ではなく、変えられる未来に対する人事評価・成長主義を日本企業に広めるために様々な企業の人事部門の担当者と議論している」というお声を頂きました。
ご意見のほとんどが「変えられる未来に向けた人材マネジメント」にご賛同いただくもので、なかには「すぐにでも1on1ミーティングに取り入れたい」というお声もありました。ただし、「高い目標が良いとは分かっているものの、どうやって設定すればいいのか分からない」「ゴール(高い目標)にたどりつくまでの中間目標とは、どのようなものなのか?」といったご意見も頂きました。そこで、今回と次回の2回にわたって、成長ナビの詳細なプロセスを解説します。今回は、成長ナビのキモともいえる高い目標を設定するプロセスを説明しましょう。
「10年後に自分はどう在りたいのか」という目標を立てる
前回からの繰り返しになりますが、人が成長するためには目標設定が欠かせません。なぜならば、目標がなければ自分がそこに近づいているか、遠ざかっているかさえ分からない、つまり成長しているかどうかさえ分からないからです。
設定した目標が低いと、どのようなことが起こるでしょう。「できて当たり前」の目標を設定すると、誰も成長につながるチャレンジをしなくなります。しかも、「できて当たり前」の低い目標だと失敗が許されなくなります。失敗してはならないストレスの中で仕事を続ければ、成長の機会がないどころか、苦痛だらけの毎日になる可能性さえあります。
成長ナビでは「10年後に自分はどう在りたいのか」という目標を立てます。この目標は、会社組織の中に限ったものではなく、「人生の目標」と「仕事の目標」がオーバーラップした領域に設定します。TOCでは、こうした高い目標を「アンビシャスターゲット(AT)」と呼んでいます。
自分にとって「望ましくない現象」が高い目標の種に
世の中には、こうした目標を自律的に設定できる人もいますが、多くの人には具体的なイメージが湧かないと思います。というのも、まだ見ぬ未来のことを想像することは難しいからです。まして10年後の未来となると、どうやって想像したらいいかさえ分からないという人が大半でしょう。
成長ナビには、ATを描くシンプルなプロセスがあります。それは(1)仕事上の「望ましくない現象」をリストアップする、(2)「望ましくない現象」をつかって「望ましい現象」を考える、(3)「望ましい現象」全てを達成する自分の目標を考える――という3つのプロセスです。このプロセスを概観したものが次の図です。以下、順を追って説明しましょう。