経営トップをサポートできる人材に必要な要件として、酒巻社長が真っ先に挙げるのが「国語力」。読み書きする力があれば、資料を読みこなして幅広く深い知識を身に付けたり、そこから事業のヒントを見つけたりできる。国語力強化にお勧めなのが「マンガ」を読むことだという(聞き手は小林暢子)。

 「経営トップの片腕になる人材にはどのような力が必要だと思いますか」

 「人材育成において、何を重視していますか」

 こんな質問を受けることがある。片腕になってもらうのであれば、数字を読む力もほしいし、人事についても分かっていてほしい。メーカーなので、専門分野についての深い知識や見識も欲しいところだ。だが、それにも増して私が重要だと思うのが「国語力」。ものを読み書きする力だ。

 そもそも社長のサポートするのだから、社長より幅広い知識を持ってもらわないと困る。たくさんの文書を読んで知識を身に付けてほしいので、国語力は全ての基礎になる。以前、株主総会にかつて当社で働いていた女性が来てくれたことがあった。総会後、私のところに来て「子供が全然勉強しないのだが、どうしたらいいか」と相談された。そこで「一番大事なのは国語力をつけること。国語ができないと数学もできない。読解力がないから、数学の問題も意味が分からなくなってしまう」と答えた。

受験マンガには経営のヒントが詰まっている

 部下には「日経NETWORK」など日経BPの技術系雑誌を読ませて、時にはレポートを提出させている。雑誌や本を読ませて徹底的にレポートを書かせれば、どんどん力がつく。

 とはいえ、いつも仕事に直結する本ばかり読ませていても幅が広がらない。そこで私が勧めるのがマンガを読ませることだ。

 私の部屋は壁一面が本棚になっていて、ジャンルを問わず様々な本がある。社員には「読みたい本があったら貸してあげるよ」と言っている。その中には少なからぬ量のマンガがある。

 最近、傑作だと思ったのが『ブルーピリオド』(講談社)だ。突然、美術の道を志して、最難関の芸大受験を目指す男子高校生が主人公。「マンガ大賞2020」をはじめ、数々の賞を総なめにした作品だ。

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酒巻 久 キヤノン電子社長(写真:稲垣 純也)

 芸大受験は四浪、五浪も当たり前という狭き門で、主人公は塾に通っていろいろな対策を考える。これは、まさに経営と相通じる。目標(芸大合格)を決めて、その達成のために途中経過に小さなゴールをいくつか設定し、どうアプローチするか工夫を凝らしていく。商品開発にも通じるし、人材育成でも参考にできる。私はこの本を副社長と人事のトップなどに読ませた。

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『ブルーピリオド』は現在9巻まで発行されている

 マンガのいいところは自分の意志で読むことだ。子供にマンガを読ませない方針の親もいるようだが、私はテレビやゲームは禁止してもマンガは禁止すべきではないと思う。テレビを見たり、ゲームをしたりするのは受動的な行為だが、読むという行為は主体的にやる。ながらではできないので集中する。

 マンガにはとても奥が深く、読解力を必要とするものも多い。私が最も好きなマンガは聖徳太子を主人公にした『日出処の天子』(KADOKAWA/メディアファクトリー)だが、「あれを読めるようになったら一人前」といつも言っている。ストーリーも複雑だし、歴史も分かっていなくてはいけないからだ。