2009年に宇宙事業への参入を宣言し、2017年に小型衛星の打ち上げに成功したキヤノン電子。その推進力となったのは宇宙関連のトップレベルの研究者たちが次々と入社を決めたことだった。経営戦略と人材戦略がぴったりとかみ合ったことが功を奏した。(聞き手は小林暢子)。
酒巻 久 キヤノン電子社長(写真:稲垣 純也)

 キヤノン電子が、小型衛星の事業を立ち上げたのは2013年。キヤノンの子会社として、精密機器や光学機器、ソフトウエアを主な事業領域としていた当社が「宇宙」に乗り出すことに対しては、驚いた人が多かったようだ。

 私にとって、それは長年の夢だった。1967年にキヤノンに入社して、1999年にキヤノン電子の社長になった。当時のキヤノン電子は赤字続きでグループのお荷物会社だったが、製造、設計、事務とあらゆる業務を改革し、ムダをなくして利益が出る会社に再生させた。頑張れたのは「経営に余裕ができたら新しい事業に挑戦しよう」と決めていたからだ。

 再生に悪戦苦闘し、売り上げと利益の確保に追われる日々を過ごしていた2002年、海外の友人から薦められてエヴェレット・カール・ドールマン氏の『アストロポリティーク 宇宙時代の古典地政学』という本を読んだ。「これからの時代は地上500~600kmを制したものが世界を制する」とあるのを見て、これだと思った。

 そこから紆余曲折を経て、2009年に宇宙事業への参入を発表し、2017年に小型の人工衛星1号基の打ち上げに成功した。カメラやプリンターなどの民生技術を使って、大幅なコストダウンを実現した1号基の打ち上げに成功したのが2017年6月。民生品のカメラ「EOS」の中古品を搭載したこの衛星は、3年たった今も日々美しい宇宙の画像を撮影し続けている。

1号基が撮影した月と火星の画像。民生品の「EOS」で高解像度の撮影ができる。(写真提供:キヤノン電子)