宇宙事業に参入後、2017年には人工衛星1号基の打ち上げに成功したキヤノン電子。しかしそこからはそう甘くなかった。2020年7月には2号基を載せたロケットが目標軌道に載らず失敗。酒巻社長は「ロケット会社の失敗であって我々の失敗ではない」と現場を鼓舞し、10月末に3号基の打ち上げを果たした(聞き手は小林暢子)。

 2020年10月29日。キヤノン電子は人工衛星3号基の打ち上げに成功した。正確に言えば、衛星を搭載したロケットが無事に打ち上がり、衛星を目標軌道に投入し通信確立に成功した。当社にとっては、2017年に続く2回目の衛星打ち上げとなる。

 実は同年7月に衛星2号基を搭載したロケットが発射されたが、機体を予定軌道に載せられなかった。ロケットを発射したのは米国のスタートアップ、ロケットラボだ。打ち上げが失敗したとき、私はすぐに同社のトップにメールを送り、「今回はとても残念な結果となったが、次号基も予定通り打ち上げをお願いするつもりだ。失敗にくじけず、一緒に頑張ってやりましょう」と伝えた。こういうときこそ、すぐにフォローすることが大事だと思った。

 一方で社内に対しては「自分たちは失敗していない」と言い続けた。ロケットが打ち上がらなかったのはロケット会社の失敗であり、そこに搭載された衛星を作った我々の失敗ではない。新しいことに挑んでいく人は失敗を恐れて萎縮してはいけない。社長の私がずっとそう言っていたので、光学系の開発を統括する小山剛史常務執行役員や衛星事業推進センターの丹羽佳人所長などの幹部たちも、悲壮感を漂わせることなく、楽観的に構えていたようだ。2号基と並行して3号基の開発も進めていたが、「衛星の開発を統括する衛星システム研究所の酒匂信匡所長は万全を期して準備をしており、ロケットは前回失敗したので今回はさすがに大丈夫だろう」と思っていたという。

 ただ第1回の打ち上げからずっと担当し、3回目もニュージーランドの発射場まで行ったメンバーの一人は、「無事に打ち上げられて本当にほっとした」と本音を明かしている。1回目はうまくいったので「意外といけるものだ」と思っていたが、(打ち上げに失敗した)2回目で「そう甘くない」と痛感した、と。実を言うと私も安堵でいっぱいだ。人には言わないが。

[画像のクリックで拡大表示]
酒巻久キヤノン電子社長。歴代衛星の模型とともに(写真:稲垣 純也)