オンラインイベント「CHO Summit 2020 Winter」で取り上げる「エンゲージメント」についての考察の後編。筆者がかかわった過去の調査では、エンゲージメント強化のポイントは、日本企業と外資系企業で大きな差があった。

(写真:123RF)

 前編ではエンゲージメントに影響を与える要因について、日本企業と外資系企業の差異を考察してきた。後編では人事部門がエンゲージメントを高めるために何をしているかを考察していきたい。「コミットメントを引き出し、リテンションマネジメントを実現するための取り組み」と題して、大手企業の人事部門の方々にヒアリングした定性調査に基づいている。

公正な処遇を重んじる日本企業、リーダーの「目」を鍛える外資系

 この調査でも日本企業と外資系企業の人事部門からの回答には大きな違いがあった。

 日本企業の人事部門は最も大切な取り組みとして「適正配置」「公正な評価・報酬」「権限委譲」を挙げていた。しかし、外資系企業の人事部門が重視していたのは、「社員の仕事満足」「ミッション・ビジョンの浸透」「マネジャー教育」であった。

 日本企業はマス・アプローチを得意としており、全社統一の人事施策でどう解決するかを重視している。一方、外資系企業は個に着目し、リーダーシップで解決していくという発想である。そこからヒアリングを掘り下げた。

 日本企業は「公正な評価・報酬」を重んじて、現場に正確な運用を求める。人事部門がガイドラインを設け、しっかり現場が運用できているかをチェックするというやり方だ。一方で現場の運用(昇進・昇格・配置・異動など)については、マネジャーに「権限移譲」して口を挟まない(挟めないという言葉の方が適切かもしれない)。優秀な社員が人事に関するクレームを挙げてきた場合、人事部門がその話を丁寧に聴き、現場トップに意見を上申する。それでは解決できないことが多く、優秀な人材が企業を去るケースも少なくないのだが、全体の退職率は低いのでやり方を変えることは考えていないという。

 一方外資系企業では、人事権はラインマネジャーが持っており、人事部門にはない場合が多い。そうした中、一人ひとりの社員が持つクリエイティビティーと多様性をどう引き出し、イノベーションにつなげていくのか。働き方やキャリアが多様化している中、どうやって企業や組織、仕事にエンゲージメントしてもらうのか。こうした課題意識を持って、人事部門がリーダーシップを発揮して取り組んでいるという意見が大半であった。

 10年前に、ある外資系企業のCHOから伺った印象深い話がある。その方は「管理職は『えこひいき』をどんどんしなさい」と言ったそうだ。「賞与については、えこひいきしたい人には平均の3倍以上支払ってもいい。ただし、欠勤が多かったり、著しくパフォーマンスが低かったりするごく一部の人を除いて、支給額を前年度より下げないように」とも伝えたという。

 その真意を尋ねたところ、次のような回答をいただいた。「前の賞与から10万円下がったら、半年間やる気をなくしたままになる。従来は評価によって全社員の20%近くが賞与ダウンとなっており、職場の士気や生産性が低下していた」とのことだった。

 「えこひいきしたい人」という過激な表現をあえて使うことによって、管理職は部下一人ひとりをしっかり見るようになったそうだ。えこひいきされない大半の社員に対しても、個別に配慮してコミュニケーションを増やすようになったという。その結果、えこひいきされる人もそうでない人もエンゲージメントが高まったそうだ。

 さらに、実力者が「正しくえこひいきされる」ことで、昇進においても上司に媚びへつらうヒラメ社員の抜てき人事や年功的運用がなくなり、会社に失望して黙って辞めていったり、会社への期待を諦めてエンゲージメントが低下したままで働いたりする人は減ったそうだ 。