「決めない寛容」と「決める勇気」

 グローバル組織でリーダーになるということは、文化や習慣、考え方の異なる多種多様なメンバーとビジネスを推進していくことです。これは日本では経験することがないほどのダイナミックな多様性の融合、つまりD&I(ダイバーシティ・アンド・インクルージョン)です。ジェンダーのように目に見えるダイバーシティはまだ注意して改善できるのですが、考え方や習慣の違いというダイバーシティはなかなか対応できないものです。

 私が武田薬品に転職した2日目のことです。「藤間さん、間違っています」と、同僚の人事パーソンから注意をされたことがあります。私としてはそれまでやってきたやり方でしたが、武田薬品のやり方ではなかったのです。誰しも自分の経験を基に判断しますので、経験したことがないものを受け入れるのは困難です。武田薬品でずっと仕事をしてきた同僚には私のやり方が間違いに見えて、好意から指摘してくれたのだと思いますが、私は“間違い”ではなく、“別のやり方”と思いました。

 グローバル組織のリーダーであれば、毎日のように自分と異なる意見を聞くでしょう。そのときすぐに間違っていると言うのではなく、なぜそのように考えるのか質問することが重要です。相手の考えを確認することによって論点が明確になり、建設的な議論ができて新しい考えなのか間違っているのかがわかります。なお、このとき我慢して聞くのではなく、寛容の気持ちで聞くことが重要です。すぐに間違っていると「決めない寛容」です。

 さて、議論というとこれがまた日本人は苦手です。会議で意見を言わないというのは論外で、議論するときのロジックに慣れていないのです。一例を挙げると、結論を先に言うか、理由を先に言うかの違いがあります。海外では結論を先に言ってから理由を言います。日本人はその逆で、先に理由を挙げて、最後に結論を言います。

 英語のロジックについての3日間の研修を受けたときのことです。最終日に、どのような学びがあったかを受講生が発表したのですが、高校の国語の教師をされている方が研修の重要ポイントを完璧に列挙した後、「ということで、結論を最初に言うことがいかに大事かを学びました」と、結論を最後に言いました。完璧に理解していても、結論を最初に言うのは日本人にはなかなかできません。

 読者の方々から「それは問題なのか?」という声が聞こえてきそうですが、グローバルリーダーにとっては大きな問題です。海外のメンバーは、結論を最初に言うのが当たり前だと思っていて、日本人が結論を最後に言うとは知りません。最初の言葉に注目しているのに、そこで結論を言わなければ「リーダーは意見を持っていない」と誤解されます。結論を言わずに理由や背景を説明していると、ごまかしているようにも見えて最後に結論を言うころには、メンバーはどのように反論するかを考えていて何も聞いていない――。これはグローバルリーダーとしては致命的です。

逆の場合もありました。日米の会議で日本からの提案に対して米国のメンバーが「I don’t think so」と発言すると、その時点で日本のメンバーが発言をさえぎって「Why?」と怒鳴り、会議場が凍りついたことがあります。日本のメンバーは「理由も言わず反対するとはどういうことだ」と怒ったのですが、米国人は「これから理由を言うところなのに、なぜ発言をさえぎられ怒られたのか」と、双方が理解できずに険悪な空気が流れました。

 リーダーの重要な役割は意思決定、決断することです。多様性に富んだメンバーのグローバル組織では、活発な議論を通じ意見がまとまることもありますが、なかなかまとまらないこともあります。ビジネスには決断しなければならない場面があり、意思決定するのがリーダーの責任で、ときには勇気をもって腹をくくり、厳しい決断を下さなければなりません。

 「決めない寛容」と「決める勇気」――。グローバルリーダーにはこれが求められます。