核心をシンプルに伝えて人を動かす、EVPは会社のコミットメント

 2017年、米国で世論調査やコンサルティングを手がけるギャラップ社が実施したエンゲージメント調査で、日本は139カ国中、なんと132位でした。エンゲージメントが高い従業員はわずか6%で、70%の従業員はやる気がなく、24%は周囲に不満をまき散らしているという結果でした。

 原因は多くのことが絡み合っていますが、従業員の意思に関係なく異動があり、意に反した異動であっても退職せず、エンゲージメントが低いまま在籍するというのも要因の一つと思われます。海外では従業員の同意なしで異動はありませんし、会社に魅力を感じずエンゲージメントが低くなれば転職します。そのため、海外の会社は日本とは比べ物にならないくらい従業員を大切にして、従業員のエンゲージメントを高める工夫をしています。ここも日本の人事がグローバル化において注意すべき点です。

 EVP をご存じでしょうか。従業員を軸とした企業のブランディングのようなもので、従業員にこうあってほしいという姿とそのために企業が何をするかを示しています。日本ではEを”Employee”とする「Employee Value Proposition」が主流となっていますが、海外では「Employer Value Proposition」として、Eを”Employer”とする両方の考えがあります。EVPは、日本語では「従業員価値提案」と訳されていますが、この日本語訳以上に、企業の強いコミットメントがあります。これも従業員を大切にする姿勢の表れです。

 武田薬品工業にいたときに参加したグローバルプロジェクトでは、EVPを「Empower People to Shine!」 としました。「権限を委譲し従業員に輝いてもらいたい」ということです。積水ハウスは「『わが家』を世界一幸せ場所にする」というグローバルビジョンを実現するため、「積水ハウスを世界一幸せな会社にする」ことを目指しています。EVPという発想からではありませんが、これはまさにEVPです。

 連載第1回で、バイエルドイツ本社の人事部長に「そんな複雑な制度では、理解できない国もあるよ」と言われたエピソードを紹介しました。日本の企業は転職による外部からの知見が限定的で、人事制度も企業ごとに独自の進化をする傾向があり、ときとして本来の目的を見失い、制度の精緻化に進みすぎることがあります。

 評価制度はMBO(Management by Objectives:目標管理制度)が主流ですが、提唱者であるドラッカーは「Management by objectives and self-control」と表記していました 。後半の「self-control」が重要で、会社や上司がトップダウンで目標を課して部下を管理するのではなく、従業員が自ら目標を設定、業務を主体的に管理し自主性が発揮されより大きな成果がでるという考えです。主体性が発揮され大きな成果が出るということは、従業員が成長しているということです。

 多くの日本企業の評価制度は、より精緻に評価することを念頭に置いて作られ複雑化し、目標設定の大半はトップダウンで、上司と部下の評価面談は過去1年の成果の確認に終始しているように思えます。この評価サイクルにおいて従業員の成長、つまり将来については語られませんが、人事はこのことに疑問を感じていないのでしょうか。

 数年前にノーレーティングの議論が盛んに行われました。メリットもデメリットもあるので、企業ごとに判断して議論は落ち着きましたが、メリットの一つは、必要以上に精緻な評価に時間をかけず、従業員の将来について上司・部下で時間をかけて話ができることです。ドラッカーが提唱したMBOの本来の目的に沿った評価制度になっています。

 武田薬品でノーレーティングの導入を検討した際、ノーレーティングに加え従業員の成長も振り返り、頻繁なフィードバックとキャリア面談に重点を置く新しい1on1を構築し、「クオリティーカンバセーション」と命名しました。この命名は、「他とは違う1on1」であることをグローバルに伝えるのにとても効果的でした。CoEはただ人事施策を作るだけでなく、シンプルに伝える工夫も必要です。それは実効性につながります。