人事の最も重要な任務に効くタレントレビュー

 「人事の最も重要な任務は?」と問われたら何と答えますか。藤沢薬品工業(現在のアステラス製薬)の人事の答えは「次世代の社長を育成すること」でした。営業から人事に異動して間がない私は「そうか」と思いながらもその重みについては十分に理解していませんでした。

 というのは、2000年当時の藤沢薬品の人事は、50人の将来の社長、部長候補の優秀人材プールを持ち、その50人全員に育成プランを作成し、その達成状況を基に優秀人材を毎年見直し、常にベストな50人の優秀人材プールを維持していたからです。人事1年生だった私には、人事としては当たり前のことだと思ったのですが、それから20年人事に関わる中で、これがどれだけ大変なことか身をもって知りました。

 日本ではあまり知られていませんが、グローバルな世界には「タレントレビュー」という魔法のつえがあり、グローバル企業では「評価調整会議」のごとく普通に行われています。2010年に武田薬品の米国子会社に駐在したころには、タレントレビューを実施していましたし、2014年にはグローバルでタレントレビューを展開しました。

 ここで「人材の育成」についての認識を合わせたいと思います。日本企業もリーダー育成には力を入れていますが、それはグローバル水準のリーダー育成でしょうか。どこか“平等”の意識が強く残っていないでしょうか。

 武田薬品でHRBPをしていたころの話です。経営職(管理職)昇進が近い従業員を対象にリーダーシップ研修を企画したところ、外国人の事業本部長から「一体何人にリーダーシップ研修をするのか」と驚かれ、研修の再検討を指示されました。日本では階層別研修が一般的ですが、海外では研修プログラムは豊富に用意するものの、企業からの受講強制はなく、従業員が自らの意思で必要なものを選んで受講します。

 会社が強制するのはコンプライアンスと、特定のポジションで法律や規制によって受講が義務付けられているものぐらいで、キャリア実現のためには自ら学び成長してポジションを獲得するのが常識です。選抜リーダーシップ研修は、将来の社長や本部長候補のかなり限定した候補に集中的に実施します。

 では、どのように将来の社長や本部長候補を選抜しているのでしょうか。ここで効力を発揮するのが「タレントレビュー」です。

 タレントレビューは組織強化と人材育成が目的で、組織のレビューと人材のレビューの2つの側面があり、先に組織のレビューを実施し組織の補強すべきポジションなどを明らかにして、人材のレビューで適任者を探し任命します。これは組織強化のアプローチですが、同時に人材育成のアプローチにもなります。組織レビューにて人材育成に適したポジションも検討して人材のレビューを実施し、人材育成での異動を決定します。

 人材育成では人材のレビューのことをタレントレビューということが多いので、ここからは人材のレビューをタレントレビューといいます。タレントレビューでは直近2~3年のパフォーマンスを縦軸に、ラーニングアジリティー(ポテンシャル)を横軸にそれぞれ3段階に分け、9つの箱の9ボックスを作り、それぞれの箱に人材を当てはめます(下の図)。

[画像のクリックで拡大表示]

 タレントレビューはパフォーマンスが優れているかだけではなく、キャリアのタイプを見ていて、それをラーニングアジリティーで判断しています。専門性を深く追求するスペシャリストのキャリアか経営陣のキャリアを目指すかで、経営陣には幅広い経験が求められることから「経験から学ぼうとする能力と積極性、そしてそれを新しいもしくは初めての状況に応用して成功を収める能力」をラーニングアジリティーで見ます。