ローカル最適とグローバル連携

 企業が海外に進出する場合、いくつかのステージがあります。最初に海外進出する方法は、数人の駐在員を送り現地調査から始める、現地の企業とライセンス契約をしてビジネスを立ち上げる、あるいは企業買収でいきなり大きく展開するなど様々で、いずれも特化する領域から手がけて徐々にマネジメント機能の拡大をしていきます。

 海外進出初期においては、まさにスタートアップのような立ち上げなので、型にはまったガバナンスモデルは特にはありません。しかし、企業買収で本社から駐在員を送って、買収した子会社をマネジメントするというケースでは注意すべきことがあります。

 1990年代の話です。あるメーカーが米国の企業を買収して子会社化し、米国に進出しました。米国子会社に対して、本社から社長を含むいくつかの重要部門のポジションに駐在員を派遣しました。着任当初、子会社の状況を把握するために、社長は毎日のように午後6時になると社長室に日本人駐在員だけを集めて会議をしていました。

 しかし、この方法はうまくいきませんでした。現地従業員には駐在員がスパイに思え、駐在員に話をすると社長や本社に筒抜けになると疑って心を許すことがなく、社長は実態を把握できずマネジメントはうまくいかなかったのです。

 駐在員の格言に「黒子になっても黒幕になるな」というのがあります。海外子会社の駐在員は、現地従業員に溶け込み、彼ら彼女らが成果を上げられるよう黒子になるのが、海外子会社のマネジメントの心得なのです。

 海外拠点の事業が成長して事業基盤が整ってくると、拠点戦略に基づいて事業が拠点で完結するよう、拠点最適となる組織を構築していくことになります。海外子会社の社長は国あるいは地域の事業に責任を待ち、事業のために必要な機能を整えていきます。 海外子会社の全部門からのリポートは子会社社長に提出され、子会社社長を通じて本社に報告されます。このステージでは、子会社社長は本社からの駐在員である必要はなく、現地従業員がそのポジションに就くこともあります。

 このガバナンスモデルは国・地域ごとに拠点全体を統括する責任者がいるので、本社としては、事業の管理がシンプルで海外拠点をマネジメントしやすいというメリットがあります。しかし、海外拠点間の連携が希薄で事業は各海外拠点の足し算となり、グローバルで連携することによるシナジー効果で付加価値を生み出すのは困難です。

 例えば評価制度をグローバルで統一しようとしても、海外子会社の人事から「現行の評価制度はローカルでは最適であり、グローバルに統一すると必要のない変更を強いられて現地には価値がない」などと、反対されることがあります。海外子会社のリポートは、人事も含めて本社ではなく海外子会社の社長にリポートされているので強制はできません。

 しかし、人事制度に限らず、企業がグローバル化を図るのは、グローバルでシナジーを出すためで、グローバルに議論して連携する機能を備えたガバナンスモデルが必要です。場合によっては、本社も海外子会社もローカル最適の一部を放棄することを強いられることもあり、お互いに十分議論して納得する必要があります。