リポートラインを持つことは権限と責任を持つこと

 

 日本にはあまりなじみがないリポートラインですが、リポートを受けるというのはどういう意味があるのでしょうか。「リポートを受ける」「リポートラインを持つ」ということは“権限と責任を持つ”ということです。

 5人の部下からリポートを受けるということは5人の部下に対して、5人がそれぞれ組織の長であれば5つの組織に対して権限と責任を持つということです。権限を持つからには責任を取り、責任を負わせるなら権限を与えるということです。極めて当たり前のことなのですが、日本では時々おろそかになっていることがあります。

 グローバル化が進みマトリックス組織となったときに出る課題の一つに、「地域全体のPL(損益計算書)の責任は誰が負うのか」ということがあります。

 例えば、マトリックス組織に移行する前は欧州地域を束ねる事業(営業)責任者がいて、地域全体のPLに権限と責任を負っていたとします。従業員たちは部門にかかわらず、その事業責任者にリポートをしていました。

 しかし、マトリックス組織に移行した後は、研究や生産、流通、さらに管理などの他部門はグローバル組織の従業員が業務を行うことになり、かつて地域全体を束ねていた事業責任者の権限と責任は営業部門のみとなりました。グローバル組織の従業員とはリポートラインもつながっておらず、営業以外の部門費用には責任も権限もありません。

 こうした状況下において、日本本社から事業責任者に「地域全体のPLも見てくれ」と要請することがあります。日本では、つい「あれも見ておいて」と生じがちなケースですが、リポートの意識が強い海外のリーダーには、権限がないことに責任は持てないので受け入れがたいことです。

 また、通常の組織ではうまくいってもプロジェクトとなるとリポート関係が怪しくなることがあります。例えば、海外企業の買収プロジェクトなどはグローバルな重要プロジェクトとなり、各国からメンバーが集まってチームが形成され、役員がプロジェクトオーナーに任命されることがあります。

 チームでは役割とリポートラインが明確に決まっていて、期間限定の組織となり、プロジェクトオーナーとなった役員は、経営会議など会社の意思決定の会議には全権を持って出席します。各部門からのプロジェクトメンバーは役割に応じて権限委譲され役割を果たすのですが、まれに日本本社の本部長クラスで「俺は聞いていない」と言って、プロジェクトを混乱させる人がいます。

 プロジェクトのリポートラインの権限と責任で決められた権限委譲を理解していないのです。日本の曖昧な阿吽(あうん)の呼吸はグローバルにはありません。「俺は聞いていない」というのであれば、プロジェクトでの権限委譲を事前に確認して制限しなければなりませんが、これはマイクロマネジメントのリスクもあるので注意しましょう。

 場面にもよりますが、「俺は聞いていない」ということは根回しを受けていないということになるのですが、グローバルでは通用しません。逆に海外では一部の人だけに事前に情報を提供する根回しはアンフェアとしてクレームを受けます。これは根回しをして先に教えることがいけないのではなく、同じ情報を持っていないことがアンフェアだと判断されるのです。会議は議論するところですから、出席者はみな同じ情報を持っていることが絶対条件です。会議の席では、出席者全員に配布される事前配布資料に目を通して意見を言うべきです。

 責任を負わせるならば権限を渡す――。これがグローバルマネジメントの鉄則です。