「定年」は人事戦略の放棄

Q:この連載で社会人になったばかりの方とお話する機会がありました(『本当に頭を使っているなら1日8時間以上働けない』)。2人とも就職した会社にずっといるかどうか分からない、と言っていたので日本の若手の意識はかなり変わってきていると思っています。須藤さんが伝えたいことの2番目はなんでしょう。

A:力さえあれば、スキルさえあれば、年齢はまったく関係ない、ということです。シリコンバレーにあるITの会社というと若者の集団と思われるかもしれませんが、そんなことはなく、かなりの年齢の方も働いています。私がやってきたテクニカルライティングはまさにそうで、ベテランの方が活躍していました。

 そもそも同僚と年齢の話を一度もしたことがないので正確なところはわかりませんが私が入ったチームにいたテクニカルライターは皆、50代から70代だった印象があります。テクニカルライティングのベテランは凄いプロフェッショナルで技術の細かいことは分からなくてもエンジニアとしっかり話をして見事な文書をまとめていました。

Q:米国の会社には定年がありませんから人それぞれですよね。40代でアーリーリタイアメントする人もいれば70歳を過ぎても現場でばりばりやっている人もいます。

A:はい、グーグルでは80歳くらいの方もお見掛けしました。ただ、さすがにエンジニアは20代後半から30代前半の方が多かったですね。今までにない新しいことをやっていくには前例にとらわれない若手がよいのでしょう。もっとも技術の世界は広くて深いですから、ある特定の分野で深い知識を持っているベテランも活躍していました。

Q:ソフトウエアの開発といっても最新技術を使って新しい何かをつくり出すところもあれば、そうした新機能を支える土台となるソフトウエアもあります。後者を設計できるのはやはりベテランですね。

A:若いエンジニアの前に進む力は凄いです。この機能を何日までに出す、と決めると集中力を発揮し、間に合わせる。ソフトウエアに少々瑕疵(かし)があっても市場に出してしまう。競合他社より先んじようというわけです。とはいえ、チームに経験豊富なベテランがいて「ここが抜けているよ」「あれが足りなくないかな」と助言していました。

Q:そういうチームワークは日本が最も得意とするところだったはずです。ただしチームメンバーでいられるのは60歳まででした。定年になったら全員退社させるというのはあまりにももったいない。人事競争からの脱落、というより人事戦略の放棄ですね。優秀なベテランを他社や他国に取られてしまう。

 

 『「社員が目の色を変えて仕事に熱中できない」人事後進国・ニッポン』に「60歳を超えた人についてはシリコンバレー人事を適用し、実力に応じて給与を支払ってはどうでしょう。70歳の平社員でも力さえ発揮できれば場合によっては社長より高い年収を得られる、そういう会社があったら優秀なシニアが集まります」と書きました。

A:日本の会社の人事や給与体系を根本から変えるのはきっと大変でしょうけれど、ベテランの方から変えることはできそうな気がします。グーグルの中にいて強い会社は年齢を含めたダイバーシティに富んでいるなあと実感していました。人種や性別、あるいはハンディキャップによる差別を最も嫌う社風です。目や耳の不自由な人や車椅子の人がたくさん働いていました。