日本の会社が本気かどうか疑わしい

坂本:私は「優秀な社員を採用する、そして目の色を変えて仕事に熱中できるようにする、この2点で世界の会社は競っている。世界で戦えない企業はいずれ消滅しかねない、日本の会社と人事部門もこの競争に本気で参加しよう」と繰り返しお伝えしています。

 30年前にそれまで勤めていた日本の会社を辞め、シリコンバレーで起業したのはまさにその競争に参加するためでした。米国法人で新しいインターネット・ビジネスを始めようとしていたのですがなかなか思うように社員を熱中させることができなかった。私がいた事業部の下でインターネットを理解した優秀な人材が熱中できる会社に移って行った。1990年前半の話です。「これではうちの会社はインターネット・スクールだ」と会社トップに訴えていました。

 当時からシリコンバレーではスタートアップも大会社も、できる人を獲得し、会社を成功させることに熱中させようとやっきになっていましたから、人事面で相当な工夫をしないと社員は会社の成功のために熱中しない。会社に不満はなかったのですが、競合会社と同じような、できる人にしっかり報いる人事の仕組みをつくりたかったので、日本の会社を辞めてスタートアップを創業しました。

田路則子法政大学教授(以下、田路):世界で闘える人を育て、あるいは集め、チャレンジングなことに熱中しよう、という呼びかけですよね。まったく賛成です。ただ、坂本さんは「本気で参加しよう」と仰いましたが私はそこが疑問です。日本の会社が本気でそうしようとしているのか、と疑いたくなる出来事に結構ぶつかりますので。

坂本:報じられる日本の経営者の発言を読んでいる限り、イノベーションとかクリエイティブとか、つまり新しいことをやろう、そのためにグローバル人材が必要だ、と言っている方が多いです。

田路:皆さんそうおっしゃっています。でも研究者として会社の動きを見たり、大学の教員として学生の就職相談に乗ったり日本の会社に勤めた彼ら彼女らからその後の様子を聞いたりすると、「またか」「まだそんなことをやっているのか」と唖然とすることが結構あるのです。

 イノベーションとかクリエイティブの観点から典型例をお話します。新規事業のアイデア募集をたいていの会社がやっていますよね。社長なり担当役員は「既成概念にとらわれず思い切って大きな絵を描いてくれ」と最初に言います。

 それを聞いた若手が一所懸命考えたり話し合ったり社外の人の意見を聞いたりして新規事業のプランをつくり役員の前でプレゼンテーションする。そういう場に居合わせたこともありますし、新規事業創出の支援を熱心にやっているコンサルタントの方から事情を聞くこともあるのですが、もう涙が出ますよ。若手の説明を聞いた役員が言うことときたら、いきなり「これは飛び地すぎる」ですからね。現業から遠いじゃないか、もっと経験のあるところから攻めたらどうかとか平気で言うわけです。

 もっと凄い会社になると「こんなもの、社内のどこが買うのか」と若手を面罵したりします。この意味、わかりますか。大会社で社内にたくさん事業部門があり関係会社もいっぱいあるから、まずそこに買ってもらおうというのです。グローバルどころか国内のマーケットすら見ていない。それならそうと最初からそう言えよ、と思うじゃないですか。「土地勘のあるところ、社内に技術があるところで新事業を考えてほしい。顧客は身内からでいい」と指示してもらいたいです。それを新事業と呼ぶのかどうかはともかく。

田路則子氏
田路則子氏
法政大学経営学部教授

坂本:あえて経営者の肩を持つとそういう場に出てくる提案そのものが駄目なのでは。「これをどこの誰に売るの」と疑問に思った経営者が「もっと地に足のついたところから」と言ってしまうのかもしれません。