坂本:私はシリコンバレーで起業した会社も含め、3社でCEOをやりました。その30年間、「事業計画をつくったから見てもらえないか」と日本から訪ねてこられた方が何人かいましたが、どの計画も不十分でCEOの私からするとゴーサインを出せないものばかりでした。

 特にマーケティングやセールスについて全くプランされていない。現在のマーケット状況とその穴、その穴をどう埋めるか、その穴は将来、数千億円市場になるという予測計算。少人数、知名度ゼロ、小規模のセールス予算でスタートして、どのように拡大していくか。こうした基本となることが書いていない。書いてあることの大半は製品と技術の説明です。30ページにわたって微に入り細に入り、その技術の優れた点を書いた計画書も読まされました。確かにすごい技術なのでしょうし、それをビジネスの中心に置くのはよいのですがそれだけでは売れません。

田路:その点はどうでしょうか。多くの会社がマーケティングとか、新規事業開発のお作法とか、事業計画書の書き方とか、研修をしている気がします。MBA(経営学修士)をとった人もいるでしょうし。大学生でも結構勉強していますよ。最近は顧客や市場を設定した計画書を書くようになってきているはずなのですが。

坂本:書き方は知っているのかもしれないがアウトプットに反映されていない。日本に戻ってからもそうです。つい最近も日本を代表する世界的企業に在籍していた方から事業計画書を持ち込まれましたが、やはり製品と技術のことばかり書いてありました。

見えないものに弱い日本の会社

原田:お二人の指摘を伺っていると、視野というか視座というか、何が見えていて何が見えていないか、そこが問題ではないでしょうか。飛び地を嫌がるのは自分に見えていないマーケットについて考えたり判断したりするのが「気持ち悪い」から。技術中心になってしまうのもマーケットが見えていないから、ではないでしょうか。

田路:そうそう、見えているところは一生懸命やる。部品には強いけれども、アーキテクチャーというか、全体設計は苦手。はっきり見える上得意の意向には何でも従うけれど、これから大きくなる新しい顧客は見えていない。

 典型例をお話します。半導体製造装置を巡るイノベーションについて調査をして論文を書きました。この製品分野は日本勢が圧倒的に強かったのですが今では欧州メーカーに逆転されています。トップに立った欧州メーカーはコンソーシアムに参加したりサプライヤーと共同開発したり、さらに製品を使う顧客と密にやり取りをしたりして、情報を集め、顧客の状況や技術水準に合わせて製品を届けるようにしました。

 彼らはほとんどの部品を外から調達しています。それをくみ上げ、ソフトウエアで制御し、調整可能にしている。そういう全体設計、すなわちアーキテクチャーを自分でつくり、「このアーキテクチャーに組み込める部品をつくってほしい」とサプライヤーに頼む。部品そのものの詳細設計はサプライヤー側に任せる。

 これに対し、日本メーカーは技術力があったので自分で考え、同じく技術力のあるトップクラスの顧客に向けて製品を納めていました。ほとんどの部品を内製し、素晴らしいものをつくった。部品群を調整し、結果として完璧で狂いのないアーキテクチャーができていたのですが、このやり方では次の世代の装置を作ろうとすると、調整が煩雑過ぎて、結局は一から全てをやり直すこととなり時間もコストもかかる。しかも伸び盛りではあるが技術力がまだまだの顧客を取り込めなかった。

坂本:今のお話の中で私として強調したいのはソフトウエアの重要性ですね。いまやどの事業分野でもどの製品やサービスでもソフトウエアで制御したり価値を追加したりすることが欠かせません。

 欧州の半導体製造装置メーカーの件はまさに言葉本来のシステムインテグレーションでありソフトウエアの威力を示すものでしょう。ところが日本でいうシステムインテグレーションは妙なことになっていて、大会社が顧客から大規模なソフトウエア開発を請け負い、それを関連会社や外注先につくらせることを指してそう呼びます。

 ITの会社なのに自分ではソフトウエアを開発していない、つまりプログラミングをしていないという信じられない状況にあります。これではイノベーションが起きない。重要な部分を切り出してそこはプログラミングまでやり、新製品として販売できるようにすべきと思います。