スタートアップを生む環境は日本でも整った

原田:ここまではどちらかというと一定以上の規模がある会社についての議論でした。イノベーションやグローバル人材というテーマですとスタートアップを日本でもっと起こそうという話もあります。

田路:日本のスタートアップとシリコンバレーのそれを比較した研究をして2020年に『起業プロセスと不確実性のマネジメント』(白桃書房)という本にまとめました。

 首都圏に拠点がある、いわゆるWebビジネスのスタートアップを90社くらい、シリコンバレーのスタートアップを50社くらい選び、アンケート調査をしたり聞き取りをしたりしました。物凄く大雑把に調査の結論を言いますと、スタートアップを始めて、ある程度のところまで持って行く環境において日本はいまや遜色ありません。リスクをとり、自分で目利きして投資をする、本来のベンチャーキャピタルがかなり活動しています。

 ただし、いわゆるシリーズC、Dといった創業後期の投資額では米国が圧倒的に多く、日本は大差を付けられています。お金はあるはずなのですがその時期のスタートアップに回ってこない。日本の大きな会社は国内のスタートアップをそこまで支援しようとしない。このため、日本のスタートアップはたかだか数10億円程度の運転資金を調達するために無理に株式を公開してしまう傾向があります。公開してしまうと投資家対策にお金と時間がかかるし、あれこれ注文もつくし、結局は小粒のままで終わってしまう。

 この問題は、イノベーティブで世界のことが分かっている人材が日本にほとんどいないことに直結します。CVC(会社が運営するベンチャーキャピタル)がうまくいかないのは投資を判断する人がサラリーマンだからです。友達が少なくて差の小さい給与をもらい、成功にはさほど報いず、失敗には厳しい人事評価の中で手堅くやってきた人に投資はできません。

 CVCのディレクターができる人をそれこそシリコンバレーで探して雇えばいいと思いますが、そうなると「社長の5倍の給与は出せません」ということになってしまう。

坂本:最近の動きを見ているとサイバーセキュリティのスタートアップへの投資がすごい。1社に500億円以上も投資をする。シリーズCやDで100億円規模の投資はざらです。そのほとんどの投資はマーケティングやセールス拡大に使います。

 米国では開発に全投資額の25%、マーケティングとセールスに60%、その他に15%という資金配分が一般的です。ところが日本ではベンチャーキャピタルも含めて、製品開発にばかり投資をする傾向があります。世界的なスタートアップが日本に出て来ないのは当たり前です。日本のベンチャーキャピタルや大手企業はシリコンバレーのスタートアップ投資にも参加しているにもかかわらず、日本でマーケティングやセールスに投資をしないのはなぜか分かりません。この投資状況を改めない限り、日本から世界的なスタートアップは出て来ないままでしょう。

 もう少し言うと、マーケティングとセールスについては米国にいる人材の能力を活用する、つまりグローバル・ビジネス展開を考えるべきと思います。

田路:創業後期の投資と並んでシリコンバレーと日本で差があったのはスタートアップを始める人の学歴ですね。シリコンバレーで起業する人の6割強が理工系の出身、しかも半数が大学院卒です。日本の場合、理工系比率は3割を切り、大学院卒は2割くらいでした。米国では理工系の大学を出てMBAを別にとっている人も多いですよね。マーケットを見ていないとか、技術のことしか言わない、といった話が出ましたがそれは学歴とも関係している気がします。