一方、スタートアップは創業時からテレワークをしていたところは別にして、多くは社員がオフィスに集まりアイデアを出し合ってアジャイルに仕事をやっていますからすべてをテレワークに切り替えるのはなかなか難しい。米国と一緒だと思って坂本さんの話を聞いていました。

 オフィスから離れて働く体験をしてこれからどうなるか。会社から離れていく人が出るでしょう。テレワークの実施は個人主義の傾向を促すことになると見ています。それを察知した経営者が「テレワークを止める。全員オフィスに出てくるように」と言い出すかもしれません。そういうせめぎ合いが始まるのではないでしょうか。

 世界が小さくなったという指摘は示唆に富みます。ビジネスの世界にあてはめるとパワーの構造が変化する。日本でしたら社長室とか人事室とか経営陣に近い場所にいることがある種のパワーになっていた。シリコンバレーの人もシリコンバレーというユニークな地域にいることがパワーになっていた。離れている人はなす術がなかったわけですが世界が小さくなるとだれもが同じパワーを持つようになる。色々なことが変わっていくでしょう。

日本の会議に「根回し」が必要なくなる

神田幸夫氏(以下、神田):私は自動車メーカーに30年ほど勤務し、海外部門が長かったので、米国や中国などに何度も出張しました。それからスタートアップに転職し、中小企業診断士の資格をとり、今はスタートアップのCFOをやりつつ、中堅中小企業を支援する活動をしています。

神田 幸夫 氏
神田 幸夫 氏
(写真提供:神田氏)

 テレワークがもたらす変化のうち良い点をいくつか挙げてみたいと思います。まず日本の会議のやり方が改善されるのではないかと期待しています。日本と米国の仕事のやり方は色々違いますが顕著なのは会議です。何かを決める会議を開こうとすると日本では遅くとも1週間くらい前に資料を作り、会議に出てくる人たちに事前に説明します。根回しですね。

 会議には全員がいるところで決めたという形にする程度の意味しかなく、実際には会議の前の根回しでほとんどのことが決まっています。その根回しにものすごく時間と手間がかかっていました。ところがテレワークで根回しをするのはやりづらい。会議の内容にもよるのですが「どうせオンライン会議をするなら集まった人が話をして決めればいい」というやり方に変えた企業があります。

 こうなってくると色々な人が意思決定に参加でき、表の場でフェアに物事を決めるようになる。特定の人たちが根回しをし合って裏で決めてしまう日本の悪い体質が変わるのではないでしょうか。

坂本:シリコンバレーにいた30年間、私が関わった会社、一緒に仕事をした会社の中で根回しは一切ありませんでした。事前に資料は配りますが議論はぶっつけ本番です。原則として持ち越しや持ち帰りは無し。その場で結論を出し、決まったことをやっていく。うまくいかないこともありますがそうしたら次の会議で議論し、やり方を見直します。

神田:根回しの他に日本の会議の悪い点として、何かを創造する、生み出す会議がこれまで少なかったことが挙げられます。オンラインでも対面でも、せっかく人が集まって話をするのだから新しいことが出てくる前向きな会議にしようという機運が出てきています。

坂本:ぜひそうなってほしいですね。アイデアを出し合う場では「こうやったらうまくいく」「なるほどそれは面白い」といった前向きな発言をすることがルールです。「それは駄目」「前にやって失敗したあれに似ている」などと指摘する人がいると時間を無駄にするだけで終わります。