OJTをテレワークでできるか

坂本:テレワークやWFHの影響のうち、目に見えないほう、帰属意識や会社の風土、社員の育成、個々人のやる気あるいはストレス、といった点をどう見ておられますか。

神田:日本企業が今困っているのはOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)をどうやったらいいかです。仕事ができるようになったらテレワークでいけるかもしれませんが、そうなるまでは育成が必要です。上司と部下でどう仕事を進めるか、マニュアルの再整備やジョブの再定義をやっている企業が多いです。

 テレワークですと現場でのきめ細かな指摘や議論ができなくなります。対策としてはまず上司との関係を意識的に密にすることでしょう。些細なことでも聞ける良好な関係を築く。さらに上司以外の様々な人との自由なコミュニケーションができる環境の整備も必要です。例えば、異動になった前任者と自由に連絡がとれるようにする。他部署とも気楽にやりとりする。関係する組織全体でコミュニケーションを活発にし、相互にリスペクトし、育成、成長していく。こういう組織文化が生まれてくれば強い組織になれます。

坂本:意識改革、風土改革ですね。ぜひとも挑戦してほしいのですが、大手の経営幹部に会っていると、どこまで本気なのかなあと首をひねることもあります。

神田:ラグビーの日本代表がモデルになると思っています。多様な宗教、価値観、個性の持ち主が集まっていますが世界のトップレベルになっています。メンバーが多様な能力を発揮し、相互にリスペクトし、カバーし合っているからでしょう。素晴らしいキャプテンがいたことも大きい。組織においてもコロナ禍の後、メンバーのモチベーションを維持できる、尊敬される強いリーダーが求められるでしょう。日本においても個人主義に向かうとする指摘がさきほどありました。強い個人が出てくるし、それを受け入れるようになるのではないでしょうか。

 もちろん製造業でチームワークの重要性に変わりはありませんが、環境が変化したり目標を修正したりしても、個人の専門的な能力や個性を最大限に発揮できるチームが勝っていくでしょう。組織に同化、同調していればよい、というこれまでの風潮が変わることを期待します。

三藤:社員が一致団結して働く社風があったとしてそこにテレワークが寄与できるのでしょうか。何かの取り組みを真剣にやるかどうかはそれにかかるコストや手間と関係していると見ています。大学の人間として例を出すと学会が地方で開かれ、出張して泊まり込んで発表をするとなると費用も時間もかかるだけに、おのずと真剣になります。

 テレワークにコストはかかりますがそれほどの額ではない。だから仕事の手を抜くということはなかったとしても緊張感をもって取り組む施策とは言えないのでは。しかも色々な人にオンラインで手軽に会える。実際に訪問して対話するよりも本気になることはないでしょう。

 そうなると会社全体の本気度、あるいは求心力が弱くなっていきかねない。だから個人主義を促すことになると申し上げました。自立と自律は尊いことですが人は利害得失で動くこともあります。個人主義の良し悪しを論じるつもりはありませんが、テレワークは本当に効果的なのかと考える経営者は出るでしょう。

坂本:効果がある職種、あまりない職種は分かれますね。ソフトウエア開発はテレワークでやれると思いますが。

池邉:経済学の世界では自立と自律を認めるとモラルハザードを起こしかねない、という見方をされます。では経営者やマネジャーが部下にあれこれ指示すればいいのかというと「言われたことだけをしていればよい」ということになりかねません。これもモラルハザードでしょう。

 やはり何を目的にするのか、それ次第だと考えます。“Sustainable development”が流行語のようになっていますが、私は「持続可能な社会の発展」と訳しています。外から与えられたゴールに向かって開発していく、ということではなく、社会を良くするために自分達が内発的に自立し、自律していく時代だと私はとらえているからです。

 今やっている仕事が社会に良いインパクトを与えるのかどうか、良いインパクトをもっと深めていくにはどうするか、そういうことを話し合い、思いを共有できればチームワークを維持できますし、自立と自律によってモラルハザードなど起きません。社会の発展は多くの会社や組織が協力して取り組むテーマでもあります。大きな目的があれば、会社の枠を超えた連携ができるでしょう。

坂本:シリコンバレーで経営をしていたとき、“Sun is always watching you !”と社員に伝えていました。会社の目的は売上と利益の継続的な向上ですが、同時に「お天道様に顔向けできないことは絶対にするな!」ということです。法で規制されていないとしても道徳に反することはしない。SDGsや ESGに積極的に取り組むこともお天道様が見ている範疇(はんちゅう)でしょう。

池邉:テレワークについて言いますと現状何か問題があったとしてもそれは過渡期だからであってITやツールの利用で解決していけると考えます。シリコンバレーでの製品の検証をする例についても離れた場所にいる顧客やエンジニアが協力してテストする仕組みを作れるでしょう。