働き方改革の一環として「健康経営」に取り組む企業が増えている。しかし、本当に必要なのかと疑問を抱く経営者もいるという。「CHO Summit 2020 Winter」(2020年11月30日、12月4日オンライン開催)では、empheal(エンフィール)の西口孝広氏と悪性リンパ腫の闘病から復帰したアナウンサーの笠井信輔氏が、健康状態の悪化による生産性損失の実態とその打ち手である健康経営の在り方を議論した。(取材・文=日経BP 総合研究所 ライター 吉川 和宏、撮影=川田 雅宏)
empheal 代表取締役社長 西口 孝広 氏(左)、アナウンサー 笠井 信輔 氏
empheal 代表取締役社長 西口 孝広 氏(左)、アナウンサー 笠井 信輔 氏

健康経営には顕在化しているリスクへの対応も必須

 世界的に見ても極端な少子高齢化が進んでいる日本では、大半の企業において従業員の構成比の中で若手が占める割合が年々、減りつつあるという。こうした状況について、西口氏は「従業員の疾病発症リスクが増加し、企業の生産性に悪影響を及ぼすことを意味しています」と説明する。

 健康経営に取り組む企業の多くは、生活習慣病対策など将来の病気発症・重症化リスクを重視しているが、西口氏は「『顕在化している生産性の低下』に向けたアプローチも必要です」と強調する。「顕在化している生産性の低下」を引き起こすのは、インフルエンザの流行、花粉症、慢性的な腰痛、睡眠障害、病気による長期入院などだ。これに向けた唯一の対策は、適切な医療を介入させることしかないという。闘病経験を持つ笠井氏は「適切な病院、医師、医薬に巡り会えるようにすることが何よりも大切です」と力説する。適切な医療情報に「たまたま巡り会えた」と語る同氏は、当初は1年ほど必要だと思われていた入院期間が4カ月半で済んだという。

 「顕在化している生産性の低下」に伴う損失は想像以上に大きい。emphealの調査によると、花粉症の影響があった日の生産性の低下率は約10%。花粉症の有病率は30%で約3カ月間、症状が続く。従業員が300人、平均年収600万円である企業を想定すると、年間の損失額は約1500万円にも及ぶという。

適切な医療情報を提供することが新たな打ち手に

 現在、日本人の2人に1人は、がんに罹患(りかん)するといわれている。これは、配偶者がいれば、どちらかが罹患する可能性が高いことを意味している。にもかかわらず、がんに対する正しい知識や備えがあるという人は、ほんの一握りだろう。笠井氏は「自分もそうでしたが、ほとんどの人ががんを告知された後に何の情報も知識もないまま、すぐに病院や医師、治療方法といった極めて重要なことを選ばなければならないのが現実です」と指摘する。治療が始まった後に、自分の選択を後悔する人も少なくないという。

 西口氏は、こうした状況を「素人がガイドなしでヒマラヤ登山に臨むようなもの」だと評する。現在はインターネット上にも膨大な医療情報が存在するが玉石混交の状態で、笠井氏は「自分に適切な情報に巡り会える確率は極めて小さいでしょう」と感想を述べる。こうした状況を改善するために、emphealが取り扱うサービスが「M3 Patient Support Program(M3PSP)」である。これは、日本最大級の医療情報サイト「m3.com」と連携した医療サポートサービス。m3.comには、日本の医師の約9割、約29万人が会員として登録されている。

 M3PSPでは、(1)医師が勧める名医・優れた医療機関をレポートする「ベストドクターセレクション」、(2)専門スタッフと専門医が適切な医療を見極めて、医療へのアクセスを支援する「マルチオピニオン」、(3)24時間365日、医師に相談できる「AskDoctors」、(4)専門知識を有する看護師・保健師・助産師が健康上の不安や悩みの解決を支援する「看護師無料相談」――などのサービスを提供している。西口氏は「従業員、そしてご家族の健康を守る秘訣は、それぞれの症状に合わせて適切な医療情報をいち早く提供することです。これが、健康経営の新たな打ち手となります」と語る。