デジタル人材は外部市場価値の存在や高い流動性がゆえに高額報酬による採用、株式型報酬といった金銭報酬が話題になりやすいが、それだけではリテンションが難しいともいわれている。「CHO Summit 2020 Winter」(2020年11月30日、12月4日オンライン開催)では、野村総合研究所(NRI)の内藤琢磨氏が、同社が独自に実施した調査を基に、デジタル人材のモチベーションの実態とモチベーションマネジメントの勘所を解説した。(取材・文=日経BP 総合研究所 ライター 吉川 和宏、撮影=川田 雅宏)
野村総合研究所 コンサルティング事業本部 グループマネージャー 上席コンサルタント 内藤 琢磨 氏
野村総合研究所 コンサルティング事業本部 グループマネージャー 上席コンサルタント 内藤 琢磨 氏

高額な報酬だけではモチベーションを高められない

 NRIは2020年2月に、満18歳以上の有職者を対象として「ワークモチベーション調査」を実施している(有効回答者数はデジタル人材1030人、非デジタル人材1030人)。ワークモチベーションの源泉を尋ねた設問では、非デジタル人材の49.1%が「給与等の労働条件」と答えたのに対して、デジタル人材は35.8%にとどまっている。内藤氏は「デジタル人材のワークモチベーションは給与などの労働条件だけではありません。高額な報酬だけでは、デジタル人材のモチベーションを維持することは難しいのが現実です」と警鐘を鳴らす。

 デジタル人材の回答をポジション別に見ると、経営や事業責任を担う人材は経営理念・ビジョン等への共感を重視し、ミドル層やメンバー層は給与などの労働条件やスキルアップできる仕事を重視するという傾向になった。こうした結果に対して、内藤氏は「幹部層にはデジタル化によるMVV(Mission Vision Value)の再定義と経営トップとのインタラクションが、ミドル層やメンバー層には客観性の高い評価制度と市場価値を勘案した報酬水準が求められます」と解説する。

 同氏は、ミドル層やメンバー層に対しては、業績評価や組織貢献評価だけでなく、アサインされたプロジェクトでの貢献状況を加味した評価制度をつくることを推奨する。この具体例として、アサインプロジェクト評価を60%、業績評価を30%、組織貢献評価を10%とした人材評価制度を実施しているデジタル・ソリューション・プロバイダーA社の取り組みを紹介した。この企業ではアサインプロジェクト評価において、個別プロジェクトの収支への貢献(事業軸)と、スキル・専門性発揮(職種軸)の双方から評価を行うことで、客観性と納得感を高めているという。

 報酬制度の見直しも必要だと指摘する。内藤氏は「デジタル人材は職種ごとに市場価値が存在しているので、それに応じた報酬水準の幅で処遇する体系が適合するでしょう」と語る。

デジタル人材に適合できる人事・人材戦略が必要

 経営者候補層のタレントマネジメントにも課題があるという。NRIが2019年に実施した「VUCA時代の経営管理に関するアンケート調査」において、デジタル化のためのリーダーシップ、専門組織、専門人材に関する問題を尋ねた設問では「そもそもデジタル化で『何を目指すのか?』といったビジョンが不明確」(41.5%)と「経営陣(執行役員以上)にDX『経験値』(知識・スキル等)が乏しい」(20.7%)という2つの回答で全体の約6割を占めるという結果になった。デジタル化で自社のビジョンを語れる経営者が少ないことが、特に幹部クラスのデジタル人材のモチベーション向上の障壁になっている可能性があるのだ。

 内藤氏は、こうした状況を解消するためには、経営者候補であるリーダーの育成方法を変えることも必要だと指摘。これまで、経営者候補となるようなリーダーを育成するには、優れた経営者の下での高い視座で数多くの事業領域を経験することが重視されてきた。しかし、デジタル時代には、デジタルで事業を立ち上げる経験やデジタルで業務を変革する仕事、ITエンジニアとマーケターを一つのチームに束ねる経験、ベンチャー企業のスピード感の経験などを重視すべきだという。内藤氏は「日本型の人材マネジメントモデルはゼネラリスト育成を目的としたもので、これからの時代にはデジタル化推進の主役となるデジタル人材に適合できる人事・人材戦略が必要でしょう」と強調する。