ビジネス成長の鍵を握るといわれるエンゲージメントを高める秘訣とは何か――。「CHO Summit 2020 Winter」(2020年11月30日、12月4日オンライン開催)では、ビジネスコーチの山本佳孝氏がD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を糸口として段階的にエンゲージメントを高める取り組みを解説した。(取材・文=林 達哉、撮影=川田 雅宏)
ビジネスコーチ 取締役 人材マネジメント本部 本部長 山本 佳孝 氏

エンゲージメントにつながる人材育成とは

 講演の冒頭で山本氏は、ピーター・F・ドラッカーと吉田松陰、土光敏夫の3氏が遺した言葉を紹介した上で「人の強み、長所を伸ばすことが成功につながる」との認識を示した。米ギャラップが行った調査でも「強みによる効果」によって社員のエンゲージメントが6倍になり、生産性や収益性も向上したとの結果を示して、「社員の長所を伸ばせば幸福感、やりがいにつながります」と強調した。

 従来の人材育成では、社員に様々な苦労や経験をさせながら成長させるという「能力説」が一般的だが、これに対して山本氏は「個々の社員が持つ強みや才能を生かすことが重要」だと述べて、欠点に目が行きがちな人の傾向を表す「ゲシュタルトの輪」の図を掲げながら、自己肯定感を損なわずに導くことの大切さを示した。

 続いて、エンゲージメント向上につながる「心理的安全性」について、同氏はグーグルが発表したデータを示しながら、「他者からの反応におびえたり羞恥心を感じたりすることなく、自然体の自分をさらけだせる場の整備が必要です」と指摘。そして、心理的安全性には生産性向上や退職リスク低減、課題の早期発見といったメリットがあることに加え、マネジャーやリーダーの負担軽減につながることを示して、その入り口となるのがD&Iだと指摘する。

 多くの企業がD&Iに取り組んでいるが、山本氏は「その内容が表面的で特別なものになっているように感じます」と前置きした上で、ダイバーシティで扱われる「多様性」や「違い」の詳細を解説した。多様性には職位や在籍年数など表面的なものから、人格や考え方など個人差の大きい本質的なものがある。同氏は「本質的な内面の違いを理解することは難しく、企業は個人と比べて、その違いについての認識が甘いのが現状です」と語る。

 さらに、日本人は「皆と同じ」という同一性を前提とする傾向が強く、これが我が国のD&I推進を阻害する要因になっているのではないかとの見方を示した。D&Iと心理的安全性は深く結びついているため、同氏は「両者を分けて考えるのではなく、全ての人が融合する方向に持っていくことが重要です」と説明する。

1on1ミーティングで組織力を強化

 次に、エンゲージメントで重要な役割を担う「コーチ」のあり方の例として、グーグルの「Oxygen」プロジェクトと、ベストセラーとなった書籍『1兆ドルコーチ』を紹介した。ここでは、ビジネスの成功には有能なコーチの存在が欠かせないことが示されている。山本氏は、相手の能力を最大限に引き出すコーチングスキルを生かした1on1ミーティングがエンゲージメントに役立つとした上で「D&Iから心理的安全性を生み出す場面で1on1ミーティングが大きな役割を果たします」と語る。

 これらのまとめとして、山本氏は「D&Iを入り口として心理的安全性を組織の中に迎え入れると、それが社員一人ひとりのやりがいを生み、将来のエンゲージメント向上につながる」というストーリーを示した。その流れを進める手段となるのが1on1ミーティングであり、結果として新たなD&Iの課題に取り組むサイクルを形作ることが可能だと説明する。