個人と会社の相互依存から脱却し、自律した関係へ
コロナ禍によるテレワークへの移行や業務分担の見直しなどが、働き方改革の追い風となった企業も多い。しかし、コロナ禍をどう乗り切るかという視点だけではなく、アフターコロナ時代の在るべき姿を描かなければ、新たなワークスタイルを人材戦略に生かすことはできない。働き方改革に早くから取り組んできた2社が「ビフォア/ウィズ/アフターコロナ」における環境整備と円滑な運用の勘所を議論した。
新生銀行は、旧・日本長期信用銀行からの再スタート以降にインターネットと実店舗を融合させたハイブリット型の新しい金融サービスの提供に挑んできた。様々な新しい試みに業界でも最初にチャレンジしてきた風土から、働き方改革にも積極的に取り組んでいるという。常務執行役員人事担当の林貴子氏は「コロナ前から多様な人材を確保するために、働き方にも多様性が必要だと考えて経営戦略に盛り込んできた」と語る。2018年から在宅勤務の導入を進めてきたが、当初は事情を抱える一部の社員の利用にとどまっていた。

その後、2019年以降に兼業・副業の解禁、ドレスコードの廃止など、多様な働き方の推進に向けた各種制度を導入してきた。こうした新制度が整備されていたことで、コロナ禍の非常事態時にもリモートワークへのスムーズな移行が進み、生産性を落とさずに業務を継続することができた。リテールの店舗やコールセンターなど出勤が不可欠な職場を含めても、ステイホーム中の出社率はグループ会社を含めて35%、現在でも60%程度だという。
グループ内には銀行以外の様々なビジネスがあり、「フレキシブルな人事制度」と「多様性を受容しシナジーを生む風土」の両方を実現することで人材価値を最大化することを目的として改革に取り組んでいる。これらの目的を達成するためには、人材の可視化や適材適所の配置、多様なキャリアパスの整備も欠かせない。来年以降は各種手当なども大幅に見直し、人事制度全体の抜本的な改革を行っていくという。林氏は、こうした取り組みの背景を次のように説明する。
「これからは社員と会社が頼り合うのではなく、互いに高め合い、報いる関係になっていくべきだと考えている。個人と会社の相互依存を減らす一方で、会社は社員に報いるサポートをする。労働の流動化や価値観の多様化が進んでいく現在は、一つの類型を前提とした制度ではなく、家族構成、転勤の可否、勤続年数といった個人の状況や選択に過度にひも付かない公正な人事制度が重要だと考えている。時間をかけて聖域なき改革を進めていく」
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