
人的資本経営に最重要なのは共通のフィロソフィー
「企業にとっての経営資源は、ヒト・モノ・カネといわれていますが、私はかねてから『人』をモノやカネとひと括りにはすべきでないと考えてきました」。アサヒグループホールディングス代表取締役社長兼CEOの小路明善氏は、こう強調する。全世界の従業員3万人強をまとめる小路氏が、経営の根幹であり原動力であるとする「人的資本経営」の情報開示に向けた取り組みと挑戦を紹介した。
講演は、人的資本をめぐる世界の潮流と取り巻く環境の解説から始まった。2020年8月、米国証券取引委員会(SEC)が「人的資本の情報開示」の義務付けを発表。これにより人的資本経営の流れが加速するといわれているが小路氏は、ようやく資本主義市場においても「人」に焦点のあたる時代になったことを感じるという。
小路氏自身、業績の苦しい時代に労働組合の本部専従役員を10年間勤めたキャリアを持つ。辛く厳しい現実を目の当たりにしつつも、社員の持つ無限の可能性と成長へのエネルギーを肌で感じてきたという。コロナ禍により、VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)がさらに深まっているが「ニューノーマルの時代においても、変わらず重要なのは人です」と、小路氏は繰り返した。
こうした環境下、「壊れたテープレコーダーのよう」だと自身で形容するほど、繰り返して社員に伝えているのが「前例踏襲の仕事はしない」と「ファーストペンギンたれ」という2つだ。過去の経験が通用しない今、前例に捉われることなく、かつリスクを恐れず初めてのことに挑戦する姿勢を社員に示し、自分自身もそうありたいと話した。
続いて小路氏は、グループとしての取り組みを紹介。2016年頃から本格的にグローバル化にかじを切ってきた同社は、2019年に企業の憲法ともいえる経営理念を改定した。それが「アサヒグループ・フィロソフィー」だ。グローバル化によって、価値観や文化の異なる人々同士がともに仕事を進めるにあたり、共通のフィロソフィーが最重要と強く実感したためだ。フィロソフィーは、全世界のアサヒグループの全従業員共通の理念であり、仕事の判断で迷ったときは、ここに立ち戻る判断基準となるものだという。
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