
解雇権と人事権はトレードオフ
言葉だけが独り歩きしつつある「ジョブ型雇用」。しかし、実は欧米にはジョブ型という働き方はないという。海老原嗣生氏は「日本人が欧米流の働き方を見て名付けたに過ぎず、その欧米流を日本の企業風土にそのまま導入することには無理が生じます」と警鐘を鳴らす。
ジョブ型の働き方は欧米企業における一つの結果論であり、それには理由があるという。欧米型の雇用でもジョブディスクリプション(JD=職務記述書)は概略表記であり、詳細は曖昧だ。ただ欧米の場合、雇用契約で「職務×勤務地=ポスト」が決まっており、本人の同意なくして、変更はできない。海老原氏は「簡単に言うなら、欧米では、企業側に人事権がないのです。雇ったポストで働かせるのが原則で、異動は本人同意が必須となります。逆に言うと、動かせないので、そのポストがなくなれば解雇、という論理も成り立つ。日本は企業が自由に動かせる分、ポストがなくなったという理由では解雇がなかなかできません」と説明する。欧米型を志向するのであれば、企業は人事権を失う可能性があることを認識しなければならないのだ。
あるポストが空いた場合、欧米では外からそのポストに見合う人を見つけてこなければならない。同氏は「明日からその仕事をできる人、となると基本は同業の競合にいる。うまく競合から採用できたとしても、今度はその会社に空席ができる。だから、永遠に人材の取り合いが続くのです」と指摘する。
日本企業ではポストが空いたら、同職者を異動させて埋める。ただ、それは空席をヨコ異動させただけだ。これを繰り返すと、「あいつはそろそろ上に上げてもいい」という部下がいる部署に当たる。彼を昇格して埋めると、今度は空席がタテパスされる。これを繰り返すことにより、スライドパズルのように、最終的に空席は組織末端に寄せられる。それを新卒採用で埋める。こうした仕組みに対して、海老原氏は「つまり、重役でもエンジニアでも誰が抜けても新卒一人で埋まる、という仕組みが日本型雇用です。欧米型に変えたら、競合と同職者を獲り合うことになるが、どちらが良いのでしょうか」と説明する。
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