長期株主が不満ぶつける

 コロナ禍で業績が低迷する企業は、業績回復の手段にESGを位置付ける企業が多い。

 21年2月期の最終損益が261億円の赤字となったJ.フロントリテイリングは、経営の重点施策に「資源循環」と「健康」を追加。顧客や従業員のウェルビーイング(幸せ)を成長につなげていく考えを示した。

 不動産や再生可能エネルギー事業を手掛けるいちごは、当期純利益が前年比38.7%減となった。自社を「サステナブルインフラ企業」と位置付け、ESGの強化を説明した。

 21年4月に経営者の交代に踏み切った三菱ケミカルホールディングスは、新たに社長に就任したジョンマーク・ギルソン氏が株主総会の議長を務めた。同社は21年3月期の最終損益は76億円の赤字となり、ギルソン氏に経営再建が託された。

 株主からは、「なぜ外国人社長を選んだのか」という質問がぶつけられた。社外取締役で指名委員会委員長の橋本孝之氏は、「日本人、外国人にかかわらず、これまでの延長ではない、変化の時代にふさわしいリーダーを選んだ」と説明した。

 ギルソン社長は、「2021年は業績回復が焦点。来るべき脱炭素社会において勝者となるべく、事業ポートフォリオの改革を進める」と語り、21年12月以降に具体的な戦略と組織構造を公表する方針を示した。

 18年度に年間40円だった配当金は、20年度は24円になった。21年度も24円とする見込みである。別の株主からは、「ここ数年、株主還元額が下がっている。長期安定株主としては配当額は元に戻してほしい」と不満を訴えた。

 これに対してギルソン社長は、「設備投資、研究開発、配当、自社株買いのバランスが大事。配当額はグローバルの競合の水準なども踏まえて決めていきたい」と答え、理解を求めた。

J.フロントリテイリング 社長 好本 達也氏 「重点項目に資源循環と健康を追加。ステークホルダーのウェルビーイングを実現する。中長期の企業価値向上を図ることで、株主の期待に応えていきたい」(写真:株主総会のインターネット配信)
いちご 会長 スコット キャロン氏 「重点項目に資源循環と健康を追加。ステークホルダーのウェルビーイングを実現する。中長期の企業価値向上を図ることで、株主の期待に応えていきたい」(写真:株主総会のインターネット配信)
三菱ケミカルホールディングス 社長 ジョンマーク・ギルソン氏 「事業ポートフォリオ改革を進める。低炭素社会で持続的に成長できる事業を伸ばしていく。年間成長率3~4%、ROE12%超を目指す」(写真:三菱ケミカルホールディングス)

東芝は議長再任を否決

 東芝は、ガバナンス問題で混乱する中での株主総会となった。20年の株主総会を巡り、東芝が一部の株主に株主提案や議決権行使に関する権利を阻害したとされる問題が表面化。車谷暢昭氏が21年4月に社長を辞任して混乱は収束に向かうと思われた。しかし、3月の臨時株主総会で選任された外部弁護士による調査報告書の公表を受けて、社内調査を主導した監査委員会の太田順司氏と山内卓氏の2人の社外取締役を取締役候補者から取り下げた。

 こうして迎えた21年6月25日の株主総会では、調査報告書をまとめた弁護士が調査結果を報告。「コーポレートガバナンス・コードの最初の基本原則は、株主の権利・平等性の確保である。これに照らして考えると、20年の株主総会は公正に運営されたとは言えない」と語った。

 株主からは、「15年の不正会計のときと企業体質が変わっていない」「取締役会議長の人選は正しいのか」といった質問や指摘が相次いだ。綱川智社長CEOは、「大変重く受け止めている。今後、第三者を含めて再調査し、原因の解明と再発防止に努めていきたい」と繰り返した。

 東芝による取締役11人の選任決議案は、取締役会議長の永山治氏と監査委員会委員の小林伸行氏の再任が反対多数で否決された。会社提案の取締役候補者が否決されるのは異例で、株主が同社のガバナンスにノーを突き付けた。

左:東芝 社長CEO 綱川 智氏 「コーポレートガバナンス・コード原則違反の疑いがあるようなコミュニケーションは改善し、透明性のある対話をしていく。再発防止に努める」(写真:東芝、2021年5月の記者会見) 右:ガバナンス問題で揺れる東芝の株主総会では、取締役の資質や取締役会の実効性など、同社のガバナンスを問題視する質問や指摘が相次いだ(写真:中島 正之)

 株主か、社会か、他のステークホルダーか――。経営者は対話を通してかじ取りのバランスを取っていく必要がある。株主が求めるのは「足元の業績も、未来の成長も」だ。両者は表裏一体。ESG経営の推進は、足元の業績が最大の武器となる。

「日経ESG」2021年7月12日掲載記事を転載