近年、「大人の発達障害」を抱える社員の職場での働き方をめぐって、対応に苦慮している企業人事部が増えています。そこで今回は、ご自身も発達障害の特性をもつ部下をマネジメントした経験があり、また「職場で大事なことは発達障害であるかどうかではない」という新たな視点で、発達障害に関するセミナー講師を担当するなど、発達障害の社員が働く現場を熟知している伊藤裕康医師に、「大人の発達障害」社員への対応についてお聞きします。

そもそも「大人の発達障害」とは?

 発達障害は、脳機能の発達のアンバランスによって生じる先天性の障害です。以前は、幼少期に周囲が気づくことが多かったものですが、近年は障害の程度がごく軽いために周囲に気づかれずに成長し、社会に出て初めて、「コミュニケーションが苦手」「不注意によるミスが多い」といった、障害を原因とするトラブルによって発覚する「大人の発達障害」が増えています。ただ、病気ではないので、治るという問題ではありません。

 いくつかの種類がありますが、いわゆる「大人の発達障害」で主なものは、この2つです。

  • コミュニケーションなど人間関係が苦手なASD(自閉症スペクトラム)
  • 不注意によるケアレスミスが多いADHD(注意欠如・多動性障害)

 このどちらか1つではなく、2つが重なり合って両方の傾向を持つことが多いのも「大人の発達障害」の特徴です。

 一方で、強いこだわりを持って高い集中力を維持しながら長時間一つのことに取り組むことができるといった、突出して秀でた能力があることでも知られ、弁護士や医者など専門性の高い職業に、この傾向を持つ人が多いことも知られています。こうした優れた能力を持つことに着目して、海外ではすでに自閉症などの発達障害者を高度なスキルを持ったIT人材として採用する企業も現れています。このほか、大人の発達障害の詳しい特徴については、以下の記事を参照してください。

ではさっそく、伊藤裕康医師にお聞きしていきます。


相談ごとで多いのは「部下への対応に苦慮しています」

近年、企業で「大人の発達障害」の社員によるトラブルが増えていますが、相談員や産業医として企業の人事担当者から受けるのは、どういう相談内容が多いのでしょうか。

伊藤裕康医師(以下、伊藤):「部下への対応に苦慮しています。ネットで見ると発達障害の傾向に当てはまるようですが、どうすればいいですか?」といった相談が7、8年前から増えています。「任せられる仕事がなくなってしまって苦慮している」という声も多いですが、中には「作業はできるけれども、周りの人とのコミュニケーションでトラブルを起こし、周りが疲弊している」という場合もあります。

 そして周囲が困っている割に本人は体調が悪そうでもなく、迷惑をかけているという自覚もなさそうだという声が多いです。また、こうした現場からの相談だけでなく、どう対応したらよいのかという研修をしてほしいといった依頼も増えています。

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