企業における働き方に大きな変化をもたらしたコロナ禍。発達障害のある人の仕事内容や環境、また支援するジョブコーチの役割にも変化が起こり、今後の課題も見えてきたという。長年にわたり障害者就労支援事業に携わってきたNPO法人ジョブコーチ・ネットワーク副理事長の若尾勝己氏に話を聞いた。
コロナ禍でリモートワークは進まなかった
発達障害のある人の働く環境や働き方、仕事内容などにも最近3年ほどで変化があらわれているのでしょうか。
若尾勝己氏(以下、敬称略):障害者雇用促進法の対象となる(障害者手帳を持った)就労者は、コロナ禍以降、自宅待機になるケースが大半ではなかったでしょうか。その背景には、障害者が受け持つ業務内容でテレワークに移行できるものは限られていたことが考えられます。

発達障害の特性として、コミュニケーションが不得手な傾向があるため自宅待機になることを歓迎するのではと当初は予想していましたが、実際にはコロナ禍でも出勤、出所して働きたい、人と接していたいと望む人が多かったようです。また、変化へ適応しにくいという特性もあるため、自宅待機になってから何をしたらいいかわからないと、電話やメールで相談を受けることもよくありました。
人と会いたい、会えなくて不安というのであれば、リモートで顔を見ながら話すなどで解決できると思いますが、そうではなく職場に行かなくなったことで自分の立ち位置がわからなくなり、不安にかられていることを強く感じました。実際、2回目の緊急事態宣言時には、当法人の通所施設で訓練する障害者に対して、リモートと通所の選択肢を用意しましたが、リモートを選ぶ人はいませんでした。
こうした発達障害の人の働き方の変化を受けて、ジョブコーチの役割や働き方などにも変化があったのでしょうか。
若尾:日本における制度によるジョブコーチには3種類あります。国の機関である地域障害者職業センターに所属する「配置型」、障害者の職場適応・職場定着支援を目的とする社会福祉法人などに所属し、企業を訪問して援助する「訪問型」、障害者を雇用する企業等に在籍する「企業在籍型」の3種類です(3分間キーワード解説「ジョブコーチ」参照)。
このうち、支援の時間と日数に応じた助成金(職場適応援助者助成金)を活用する訪問型ジョブコーチでは変化が起こっています。支援は対面で行うことが助成金支給の条件ですが、コロナ禍により企業への訪問が制限され、電話等、リモートでの安否や状況確認が主にならざるを得ないなど、活動の機会が減りました。