【概要】 「投下資本」を分母に取り、「税引き後利益」を分子に取って計算する財務指標の一つ。日本では「投下資本利益率」と訳されている。企業が調達した資本を事業に投下し、どれくらい効率的に利益を出しているかを示す。企業の「稼ぐ力」を純粋に表す指標として、多くの経営者が重視するようになっている。

 ROICと似た財務指標にROI(投資利益率)がある。こちらは「利益÷投資」というシンプルな計算式で表されており、一般的には経営状態を表す指標ではなく、個別案件の費用対効果を表す指標として使われている。

 ROIC以外の経営指標には、ROE(自己資本利益率)とROA(総資産利益率)がある。ROEは「自己資本」を分母に取り、「純利益」を分子に取る財務指標だが、自社株買いによって発行株式数を変えれば分母を操作できる。恣意的に数値を大きく見せられる点が専門家の指摘を受けてきた。一方、「総資産」に対する「純利益」の割合を表すROAは、事業活動に直接関係のない資産も分母に含まれてしまうため、事業効率の真の姿が見えにくい。

 ROICは事業に投下した資本だけを分母に取り、稼ぎ出した利益のみを分子に取る。このため、本当の事業効率、すなわちその企業の「稼ぐ力」を浮き彫りにできる。さらに、事業ごとに分けて計算することも可能であり、複数の事業を比較する指標としても使える。

 利益が大きくても、元手がかかる事業のROICは小さくなる。逆に、利益が小さくても効率の良い事業のROICは大きくなる。事業規模の大小に関係なく、「稼ぐ力」を真に表す指標として企業の注目を集めるようになった。

効果 従業員が取るべき行動を可視化

 ROICは人事部門にとっても重要な指標だ。ROICの構成要素を分解し、最終的に組織や従業員の行動にまで落とし込む「ROICツリー」と呼ばれる樹形図を描き、人事施策の検討に生かす企業が増えている。

 ROICとは、従業員一人ひとりの行動の結果である。ならば、そこから逆算して従業員が取るべき行動を可視化できるはずだ。ROICツリーを描くことで、ROICへの影響が大きい業務とそうでない業務が明らかになる。影響の大きい業務の効率をさらに高め、影響の少ない業務は思い切って廃止するなど、ROICを使って組織や従業員の行動を洗練させていくことができるわけだ。

 さらに、企業活動の目標がROICの向上にあることを明確に打ち出すことで、従業員のマインドが変わる。例えば、「労力とコストをいくら掛けても利益さえ上げればよい」と考えてきた営業担当者が、ROICを意識することで業務効率を考えるようになる。投資とリターンを勘案し、投資効率の高い顧客を優先し始めることで、組織全体のROICが向上していく。ROIC経営が注目される理由が、そこにある。

事例 オムロンは現場レベルでROICを向上

 オムロンは「ROIC経営」を前面に打ち出し、日本取引所グループ主催の第3回「企業価値向上表彰」(2014年)で大賞を受賞した。同社にとって、ROICとは「各事業部門を公平に評価できる最適な指標」だ。

 営業利益で評価する従来のやり方では、事業規模の大小や事業特性の違いが勘案されず、表面的な数字の大きさのみが優先されてしまう。しかし、投下資本に対する利益を見るROICなら、規模や特性の異なる事業を公平な条件で評価できる。同社は全社の活動を約90の事業ユニットに分解し、各ユニットをROICで評価して、最適な事業ポートフォリオを維持、更新している。

 また、同社独自の「ROIC逆ツリー展開」により、ROICを分解して各部門のKPI(重要業績評価指標)に落とし込み、現場レベルでのROIC向上を可能にしている。ROIC経営を全社組織に浸透させるため、従業員の中から「アンバサダー」と呼ばれるメンバーを任命し、事業部門ごとに現場レベルの取り組みを推進している。

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