終身雇用を前提にした日本企業の人事部門では様々な人事情報を管理してきたが、異動や配置は年功序列の「人ありき」で実施しており、その戦略的な活用はほとんどされてこなかった。近年、ビジネス変革が速まり、多様な人材で構成される組織の重要性が注目されるようになって、アナログだった人事情報のデータ化が急速に進んでいる(3分間キーワード解説「ピープルアナリティクス」を参照)。
タレントマネジメントシステムでは全社員を対象とし、人事情報に加え、社員自身が自分の目指すキャリアやスキル、経験なども入力する。「タレント」の発祥は古代ギリシアの貨幣単位を意味する言葉であり、今日のタレントが人的資本(Human Capital)としてみなされることと共通するという[注]。
タレントマネジメントを実践するには、経営トップの全面的な協力が欠かせない。絶えず変化する事業戦略を人事戦略へ適切に反映するためだ。とりわけ組織の未来を担う後継者選定では、優秀人材をタレントマネジメント・データベースから早期に選抜し、育成・登用していく必要がある(3分間キーワード解説「サクセッションプラン」を参照)。
効果 人事データの「民主化」が実現する
タレントマネジメントの運用によって優秀人材が可視化され、事業戦略に合ったキーポジション(職務)に就けることができるようになる。さらに、優秀な人材の要件を分析していくことで、研修など社員にパーソナライズした人事施策を打てるというメリットがある。
一方で、社員にとってのメリットとは何か。タレントマネジメントシステムやデータベースによって一人ひとりのデータが公開され、共有されることで、部門や職務にとらわれずに組織全体が見えるようになる。社員自身のキャリア観やスキルの見直しに参考となる例や、求める人材を見つけ出すこともできる。
事例 リコーがキャリア自律を目指しタレントマネジメント導入
2021年3月に発表した中期経営計画で「デジタルサービスの会社」への変革を加速すると発表したリコー。同年4月からカンパニー制を導入し、事業ポートフォリオの抜本的な変革にも取り組む。この基盤としてタレントマネジメントシステムの本格運用をスタートした。国内グループの約3万人を対象とし、システムの中に用意したキャリアシートに社員一人ひとりが自身の情報を登録していく。上司との評価面談や1on1などの機会で常に情報を更新。社員の自律的なキャリア形成のマインドセットを醸成していく考えだ。