【概要】 定年退職の最低年齢を引き上げることを指す。高年齢者雇用安定法(以下、高齢法)が2020年に改正され、70歳までの就業機会を確保する措置の努力義務が新設された(21年4月より施行)。従来は定年後の再雇用による雇用継続が主流だったが、働く意欲を向上し、パフォーマンスを向上するために定年延長を実施・検討する企業が増えている。

 定年延長の背景には、少子高齢化による労働人口の減少と高齢労働者数の増加がある。2025年には約5人に1人(21.7%)が60歳以上になるという試算がある[注1]。現在政府は企業に対し、65歳までの雇用確保措置として定年年齢を65歳まで引き上げる「定年延長」、定年そのものをなくす「定年廃止」、最低65歳までの「継続雇用」の3つのいずれかの実施を義務づけているが、「継続雇用」を選択する企業が8割近くを占めている[注2]

 継続雇用を実施する企業では60歳定年後に再雇用し、65歳まで非正社員(有期契約社員)とする方法を採用してきた。この場合、高齢社員は定年前に役職を離れたり(役職定年)、定年直前に一律で賃金水準を下げられたりするため、働く意欲を向上させることが難しかった。人手不足の深刻化と、2025年にかけて行われる年金支給開始年齢引き上げなどを反映して高齢法が改定されるにあたり、65歳までの定年延長を検討する企業も増えている。

効果 高齢社員のモチベーション向上を狙う

 定年延長のメリットは、高齢社員のパフォーマンスとモチベーション向上にある。ただし、定年延長を適用するケースは高齢社員が現役社員と同じ業務と責任を担い、同じ働き方をするという前提だ。『70歳雇用推進マニュアル』(独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構、2021年)では高齢社員に期待する「業務の内容と責任の程度」を明確にしたうえで、雇用制度検討と賃金・評価制度整備が必要だと指摘する。

 定年延長の人事制度にジョブ型を適用することも一案だ。三菱UFJリサーチ&コンサルティング コンサルティング事業本部組織人事戦略部長・プリンシパルの石黒太郎氏は著書『失敗しない定年延長 「残念なシニア」をつくらないために』 (光文社新書)で、職務(ポジション)に合わせてヒト(シニア)を配置する、ジョブ型を提案している。会社がシニアにどのような職務を期待しているのかをリスト化したうえで、職務内容や人材要件を定義し、職務価値を定量的に評価して報酬水準を設定する。60歳前の社員の人事制度がジョブ型でない場合は1社2制度とし、将来的に全体にジョブ型を適用していくことを勧めている。

事例 三井住友THは職務給のみの処遇で65歳に定年延長

 三井住友トラスト・ホールディングスでは21年4月から定年年齢を65歳に延長した。それに伴い、60歳以降の給与体系は、職能型ではなく、職務型を適用している。「60歳までの立場や役職よりも、その人材がこれまで培ってきたスキルや経験、強みに着眼して処遇を変動する」と井谷太執行役専務は話す。顧客に「人生100年時代の生き方」を提案する社員一人ひとりが、長く働き続けられる組織を目指すという。

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