【概要】 米国などで普及している人事評価の手法。「S」「A」「B」といった評語などによって社員をランク付けせず、上司と部下が頻繁に一対一の面談である「1on1」を実施して、成果把握や改善のためのフィードバックを行う。経営環境の変化に合わせて柔軟に目標を設定し、個人の強みを引き出せる。導入のハードルの一つは管理職の面談の負荷が高まることだが、テレワークの浸透で1on1を実施する企業が増える中、導入しやすい環境が整いつつある。

 日本では1990年代に目標管理に基づく人事評価制度が普及した。企業全体の目標をカスケードして本部、部門、個人の目標に落とし込み、その達成度によって評語などで評価する。それ以前に主流だった年功序列の評価制度に比較すると、個人の成果が評価されやすくはなったものの、「評価期間が長く、期首に立てた目標が期末には古くなっている」「組織の枠を超えた発想を持つ社員が評価されにくい」といった課題があった。また総人件費の枠内で報酬を配分するため評価が相対化せざるを得ず、「目標を達成したのに良い評価が得られない」と社員の不満を募らせる要素もある。

 ノーレイティングの人事評価では、上司と部下が頻繁に1on1を実施することで、柔軟に目標を変更し、上司がその成果をタイムリーに把握して適切なフィードバックを与えることができる。また画一的な評価基準によらず、個人の強みを多様な軸で評価できる。こうした特色から、米国ではマイクロソフトやグーグルなどイノベーションを重視するIT企業を中心にノーレイティングが広まった。

 ノーレイティング導入のハードルの一つは、上司である管理職の面談の負荷が増加することだ。日本でもコロナ禍でテレワークが普及するなか、上司と部下のコミュニケーションを強化するため、1on1を取り入れる企業が増えている。1on1が組織のインフラとして定着すれば、ノーレイティングを導入しやすい環境が整うといえそうだ。

効果 コラボレーションを促進し、イノベーションを生む

 組織・人事コンサルタントの松岡啓司氏は著書『人事評価はもういらない 成果主義人事の限界』(ファーストプレス)のなかで、マイクロソフトなどの米IT企業がノーレイティングを導入した狙いの一つに、社員間のコラボレーション促進があったと指摘する。同著では「メンバーどうしの連携が求められる職場になると、社員をランク付けする年次評価はコラボレーションの阻害要因になる。(中略)マイクロソフトのグローバルパフォーマンスプログラムの責任者は、年次評価の廃止から2年が経った2015年に次のように述べている。――社員からのフィードバックによると、レーティングを廃止したことによって、社員の脅威、心の動揺、社内競争が和らげられている」としている。

 松岡氏は日本企業がノーレイティングの導入を検討する際の懸念事項として「報酬額の決定」「昇進の決定」「ローパフォーマーの扱い」の3点を挙げている。米企業では現場のマネジャーに報酬の配分権を与えて対応するケースが多い。ただし人事部門に権限が集中する日本企業では難しい面もある。

 報酬と昇進を決定する手段の一つがタレントレビューだ。「一定の等級以上、あるいは全社員に対して、その上司を含むマネジメント層と人事が参加して、一人ひとりの成長シナリオを毎年、話し合う場」(同著)であり、ノーレイティング導入を機にタレントレビューを開始する例もあるという。

事例 育成を目的に上司と部下がゴールを「握る」

 特定非営利活動法人日本人材マネジメント協会会長の中島豊氏は「日本では査定は昇給原資や賞与原資の分配のために行うという考え方が主流であるのに対し、海外の人材マネジメントでは『査定は育成のため』という考え方が、現在のトレンドになっており、その延長線で少し前に、ノーレイティングにしようという流れが出てきたのではないか」とする。ノーレイティングは育成が目的で、一番大事なのは上司と部下が育成のゴールとその達成評価について「握れて」いることだと指摘する。

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