経営環境が激変する中で競争優位性を高めるためには、経営戦略を実現する戦略的な人材マネジメントを行うこと、すなわち「戦略人事」が企業にとって重要な課題となってきた。これを実現するための秘訣とは何か。「CHO Summit 2021 Spring」(2021年4月27~28日にオンライン開催)では、SmartHRの埜村(のむら)勇斗氏が、事例を交えながら、戦略人事に直結するエンゲージメントサーベイの効果的な活用方法を解説した。(取材・文=吉川 和宏、撮影=川田 雅宏)
SmartHR プロダクトマーケティングマネージャー 埜村 勇斗 氏

「戦略人事」に向けたエンゲージメントサーベイが必須に

 経営環境が目まぐるしく変化する現在、企業にとって競争優位性を高めるための「戦略人事」が喫緊の課題として急浮上している。埜村氏は、戦略人事とは「組織のための組織づくりではなく、事業戦略を推進するための組織づくりを実践することだ」と強調する。

 戦略人事をこのように捉えると、エンゲージメントサーベイの活用方法も変わってくる。戦略人事の観点が抜け落ちると、こうしたサーベイではスコアが低い項目から改善に着手してしまうケースが多いが、埜村氏は「自社の事業にとって重要な項目を見極めて、そこを優先して改善していくべきだ」と指摘する。重要でない項目であれば、スコアが低くても課題として認識しなくてよい場合もあるという。

 これを具現化するために、同社はクラウド人事労務ソフト「SmartHR」に独自のエンゲージメントサーベイ機能を搭載している。このサーベイ機能は「JD-Rモデル(要求度-資源モデル)」というワークエンゲージメントの考え方を採用していることが大きな特徴。仕事から受ける精神的・身体的な負荷や上司・同僚との関係性、会社の文化などエンゲージメントに影響を与える要素と、エンゲージメントを高めることで得られる結果を測定することが可能だ。慶應義塾大学の山本勲教授と共同で、高い信頼性でエンゲージメントを測定できる全45問の質問を設計したという。これらを10点満点でスコア化することで、自社の強みと課題を定量的に把握できるようになる。

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慶應義塾大学の山本勲教授と全45問の質問を設計(出所:SmartHR)

サーベイ結果から自社の強みと課題が浮かび上がる

 こうした解説の後、埜村氏はSmartHRを活用して戦略人事に取り組んでいる2社の事例を紹介。1社目は海外に親会社がある製薬会社で、従業員の7割がMR(医薬情報担当者)、3割が研究職という構成になっている。

 埜村氏は、薬品の開発や販売など高い専門知識が必要な製薬会社の特徴として「従業員が高い専門性を持ち、それを発揮することで売り上げが伸びる」「従業員それぞれの専門性をさらに伸ばしていくことが重要」「専門性が高い仕事ゆえに業界の給与水準も高い」という3つがあると指摘した上で、戦略人事を実践するには「チームワークで働くよりも競争しながら個々の専門性を高める」「ミッションなどの意味報酬よりも成果に見合った納得感のある金銭報酬」という2つの取り組みが重要だと分析した。

 エンゲージメントサーベイの結果をこれに照らし合わせると、この企業の強みとしてカテゴリーを分ける「質問タグ」では「職務」(スコアは10点満点中の7.7点)、その中の個別質問では「自分の技能や知識を仕事で使うことが少ない」(同7.7点)が浮かび上がったという。課題としては、質問タグでは「承認と報酬」(同6.6点)、その中の個別質問では「人事評価の結果について十分な説明がなされている」(同5.0点)の2つがあることが把握できた。

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製薬会社におけるエンゲージメントサーベイの結果(抜粋)(出所:SmartHR)

 もう1社は、インターネット通販および関連する物流事業を手がける企業だ。埜村氏は「こうした企業では、バリューチェーンが長い中でもお客様の声をプロダクトや仕組みに反映するための情報の横連携が重要。さらに、プロダクトと仕組みを改良するPDCAを早く回すことも重要だ」と指摘。こうした観点から、同社のエンゲージメントサーベイの結果を分析すると、強みとして質問タグでは「同僚」(同7.9点)、その中の個別質問では「職場の同僚とはどのくらい気軽に話ができますか?」(同7.6点)と、会社のためにプロダクトを良くするインセンティブになる「自社の経営理念や行動指針に共感を覚える」(同7.8点)が浮かび上がった。

 SmartHRはソフトを提供するだけでなく、顧客企業が戦略人事を実践するためのサービスも提供している。埜村氏は「私たちがビジョンとして掲げている『Employee First.――すべての人が、信頼しあい、気持ちよく働くために。』をできるだけ多くのお客様に実現してほしい」と抱負を語る。