生産性を向上させる手段として「Activity Based Working(ABW)」が注目されている。「個人が最も生産性が高い場所や時間、相手を自己裁量で選択することができる働き方」を実現するための総合的な戦略のことだ。このABWを取り入れて働き方改革に取り組んでいるのが、最先端の働き方やワークプレイスのあり方を提案するオフィス家具メーカーであるイトーキだ。「CHO Summit 2021 Spring」(4月27~28日にオンライン開催)において、同社の横溝信彦氏が自社での取り組みを基に人事戦略におけるABWの有用性を解説した。(取材・文=伊藤 理子、撮影=川田 雅宏)
イトーキ 営業本部営業推進統括部プロジェクト営業推進部部長 兼 ワークスタイル戦略室ディレクションボード 横溝 信彦 氏

ABWは総合的な働き方戦略であり、人事が主導権を握る必要がある

 イトーキはさらなる成長に向けて、2017年からABWを重要なコンセプトと位置づけ、全社を挙げてABWを採用した働き方変革に取り組んでいる。ABWとは、一言で表現すると「働き方の戦略論」のこと。横溝氏は「人事にこそ、知ってほしい」と語る。

 ABW戦略は、ファシリティーやIT(情報技術)、制度、運用などを含む総合戦略であり、これを具現化するには、人事がリーダーシップを発揮していく必要があるという。横溝氏は、ABWが持つ本質的な生産性向上のメカニズムを、次の4つのステップで解説する。

 ステップ1は「活動に適した最適な環境が業務効率向上を支援する」ことだ。オフィスが活動に特化した専用空間となることで、活動時間当たりの生産性に寄与するようになる。ステップ2は「最適なロケーションの選択を通じ移動効率が最大化する」こと。各ワーカーはどこで働くことが最もパフォーマンスが高まるのか、そしてその効率性について深く考え続けることが必要となる。

 ステップ3は「活動に基づきスケジュールの最適化を図り時間を創出する」こと。各ワーカーが自分の働くバイオリズムを考慮することで時間効率を高め、結果として時間を創出していくことが求められる。最後のステップ4は「最適な仕事の仕方を選択し続けることによる能力向上」である。自らの働き方を常に考え、実践し続けることで、本質的な働く能力向上自体の「飛躍的な成長格差」を生み出すことができる。このメカニズムについて、横溝氏は次のように説明する。

「これらの最大のポイントは、経営者からワーカー一人ひとりに至るまで、なぜABWに取り組むのかを理解し、同じベクトルに向かって取り組み続けられるかどうかにある。これが、ABWが戦略たるゆえんであり、生産性向上に直結するメカニズムである」

ABW戦略の要は、変革の意思決定に向けたビジョンの策定

 イトーキが、日本のオフィスワーカーに対して「自己裁量に基づき活動ができているか」を問いかけた調査データがある。自己裁量を規定する「空間機能性」「柔軟性」「移動性」「空間品質性」という4つの因子の全てが満たされているワーカーを「極めて自己裁量が高いワーカー」と定義したところ、全体の6.2%に過ぎないという結果になった。一方で、4つのいずれも満たされていないワーカーは23.7%にも上ったという。そこで、自己裁量が高いワーカーと低いワーカーの違いを調査したところ、生産性実感においては2倍以上の格差、ワークエンゲージメントにおいても1.5倍以上の格差があることが分かった。

 自己裁量度の高いワーカーは、継続的に業績を伸ばしている成長企業に多く所属しているという。これらのデータからは、企業とワーカーとの相互信頼に基づく自己裁量度の高い働き方が生産性やエンゲージメントを高め、結果として価値創出につながることが明らかになった。ABWのような働き方の戦略が有用であると推察される。

 横溝氏は自身の経験を踏まえ、ABW戦略を成功させるための必要条件を2つ挙げる。1つ目は、企業とワーカーとの関係性を、これまでのような管理・監視型ではなく「相互信頼型」にシフトすることだ。2つ目は、働く環境に対する考え方を「コスト」ではなく「資産」と捉えること。これらを実践するには、強い意志や勇気が必要だが「だからこそABW戦略を導入する際に最も重要であり最初に行うべきは、変革の意思決定に向けたビジョンの策定だ」と横溝氏は指摘する。ABW戦略を導入するプロセスは(1)ビジョンの策定、(2)全体計画策定、(3)導入と実践、(4)評価を通じた進化――の4フェーズだが「フェーズ1において、経営層も含めてベクトルの一致を行うからこそ、フェーズ2の具体的な計画策定、そしてフェーズ3における変革の実践、さらにはフェーズ4における導入後の改善を通じた進化へと歩んでいくことができる」という。

 横溝氏によると、成功するプロジェクトに共通するのは「なぜ、働き方を変えるのか」に対する明確な「解」があること。同氏は「ABW戦略は、常に一人ひとりが『なぜ、自分たちは働き方を変えるのか』という問いに向き合い、取り組んでいくことにほかならない」と強調する。