リモートワークの浸透でオンラインによるコミュニケーションが加速する中で、リアルな会話や雑談による情報交換の必要性も指摘されている。「CHO Summit 2021 Spring」(2021年4月27~28日にオンライン開催)にストックマークの林達氏が登壇。自然言語処理ツールを活用したデジタルな対話で組織や企業風土を改革し、競争力を高める手法を解説した。聞き手は、日経BP総合研究所上席研究員/Human Capital Committee事務局長の大塚葉が務めた。(取材・文=加納 美紀、撮影=川田 雅宏)
ストックマーク 代表取締役CEO 林 達 氏

DX推進には組織風土の改革が必須

――「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉は浸透してきたが、現場での導入の実態はどう見ているか。

林達氏(以下、林):昨年12月に経済産業省が発表した「DXレポート」では、95%の企業が「DXに未着手または散発的な実施にとどまっている」と答えている。何が課題なのか、弊社がこの2年間にDX推進に携わった約300人を対象に調査したところ、組織風土とDX進捗度が相関することが分かった。全社的な危機感が醸成されていない企業では、デジタル技術を導入してもDXは定着しないということだ。

――企業全体でDXに取り組むためには組織風土の改革が重要だということか。

林:企業文化の根本的な変革には「意識・制度・業務・意思決定・人材」の5つの要素が不可欠。その中で最も大事なのは「意識」の部分だ。“デジタル”のトランスフォーメーションといっても、土台は“人”のトランスフォーメーション。意識が変わらなければ、ジョブ型への移行や働き方改革を実施しても実効性は低いから、CHO(最高人事責任者)がCEO(最高経営責任者) を巻き込んでデジタル人材を育成し、全社のカルチャーを作り上げていく必要がある。

――具体的には何が必要なのか。

林:弊社では、組織風土を「社員の情報感度」「社員同士の情報発信」「部門内の情報共有」「マネジメントレイヤ―からの発信」「サイロを超えたコミュニケーション」「外部組織からの学び」の6つの側面で考えている。このうち施策に大きな差が出るのは、部門や立場を超えたコミュニケーション、情報公開や議論が進んでいるかどうか――すなわち風通しの良さと、情報インプットの機会だと考えている。

「知と知の掛け合わせ」で変革を生みだすデジタルツール

――御社では、その課題解決のために、どのようなソリューションを提供しているのか。

林:弊社は、自然言語処理とAI(人工知能)をベースにしたツールを提供し、デジタル上でも風通しの良いコミュニケーションが生まれる仕組みを提供している。このツールをビジネスに生かすことで、チームの共通理解を深め、ナレッジを共有し、結果として組織風土を改革したり、企業競争力を高めたりすることができる。弊社のサービス「Anews」は国内外の3万メディアをAIで解析し、業務関連情報、新領域やマクロな情報、海外の情報など、ユーザーの興味関心を引くような順序やカテゴリごとにニュースを配信している。

――ニュースを配信するだけでは、社員の情報感度を上げるのは難しいのでは?

林:例えば、情報感度が高い社員のコメントを共有することで、どんな情報をどんな視点で読み解けばよいのかが分かり、情報リテラシーが上がる。イノベーションは「知と知の掛け合わせ」で生まれるから、「研究部門ではこんな情報をチェックしている」と分かると、新しいアイデアが生まれたりコラボレーションにつながったりする。

――「Anews」の導入で企業文化が進化した具体例を知りたい。

林:公募制でポテンシャル人材を募った会社では、温度感の高い変革コミュニティーを作り、イノベーター化した人材が既存事業部で好影響を与えた例がある。数千人の若手社員に「Anews」を配信し、自律的に情報収集する手法を定着させた企業もある。経営層や入社時の研修中にアプローチするケースも多い。どのレイヤーに対する取り組みも、既存の情報収集や仕事の進め方に危機感を持ってもらい、変革の一歩となる原体験を積み上げていくのがポイントだ。

――クライアントには大企業が多いが、企業規模や状況に合わせてカスタマイズできるのか。

林:今後のビジョンや組織の理想形を聞いたうえで、必要に応じて経営層や現場の意識の分析やコンサルティングを実施する。そして理想的な風土を作るためのコミュニケーションツールの導入や、社内報などの既存メディアに対するアドバイスなども含めて総合的に支援している。また、グローバルにビジネスを展開している企業では、組織文化改革はファーストプライオリティーとなっているが、日本ではまだアジェンダにもなっていない。企業文化の変革には時間がかかるが、5年・10年の中で大きな糧になる。いち早く取り組みをスタートさせてほしいし、弊社も様々なツールやサービスで支援していきたいと考えている。