世界中の企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進している現在、この原動力となるDX人材の確保・育成が大きな課題となっている。教育業界のリーディングカンパニーであるベネッセコーポレーションの飯田智紀氏が「CHO Summit 2021 Spring」(4月27~28日にオンライン開催)において、DX人材の育成法と自立型学習の必要性を解説した。同社が提供しているオンライン学習プラットフォーム「Udemy for Business」を活用してDX人材を育成している企業事例も披露された。(取材・文=伊藤 理子、撮影=川田 雅宏)
ベネッセコーポレーション 大学・社会人事業開発部長(Udemy事業責任者) 飯田 智紀 氏

DX人材の育成には社員一人ひとりの「リスキル」が必要

 現在、多くの企業にとってDX人材の確保・育成が喫緊の課題となっている。飯田氏は、DX人材を取り巻く環境変化のキーワードとして「学びに向かうマインド」「求められる人材要件」「学習手法」の3つを掲げた上で「2020年にこの3つのキーワードに大きな変化があり、2021年の今も現在進行形で続いている」と説明する。

 まずは「学びに向かうマインド」の変化だ。世界経済フォーラムのレポートによると、2025年までに需要が高まる仕事のトップ10にはデータサイエンス・分析、AI・機械学習、ビックデータ、DXなどが並び、「働く人の半数が2025年までにリスキル(学び直し)が必要だ」と指摘している。飯田氏も「今後は多くのビジネスパーソンが、これらの新しいスキルを習得する必要があるだろう」と指摘する。

 これに伴って「求められる人材要件」も変化している。電通デジタルの調査によると、74%以上の企業が本格的にDXに着手し、実施フェーズに移行しているが、その一方で多くの企業が「自社内でDX人材を育成することが難しい」と回答している。この課題を解決するためには、もう一つの難題が絡んでくる。いわゆる文系人材と理系人材の両方にとって、テクノロジーとの関わり方が変化しているという点だ。

 これまで文系人材は主に新しいビジネスを考えたり、新しい業務プロセスを考えたりする役割を担っていたが「テクノロジーの民主化」、すなわちテクノロジーが特別なものではなくなったことで、文系人材には単に「考える」だけでなく仮説検証まで求められるようになってきた。そのため、理系人材にはより高度な専門性を身に付けることが求められる。飯田氏は「今後は、文系人材も理系人材も新たなスキル習得が待ったなしの状況になる」と指摘する。

 こうした変化を背景に「学習手法」にも大きな変化が生じている。ベネッセコーポレーションと米ユーデミーの調査によると、2020年の日本における学習意欲者は、2019年に比べて120万人も増加している。さらに、学習手法としてオンライン学習者が急増しており、現在では国内で530万人もの人がオンラインで学習しているという。

「学習の習慣化」を実現する新サービスも提供

 このような変化に対応するためにベネッセはユーデミーと提携し、2015年から日本で「Udemy For Business」のサービスを提供開始した。このサービスを利用してDX人材を育成している企業の一つが豊田通商だ。同社は100年に一度といわれている自動車業界の大変革に立ち向かうべく、全社でDXを推進しているが「内製の社内研修講座では技術革新スピードに追い付けない」「文系社員を含めたDX人材育成には一律の研修に限界がある」といった課題を抱えていた。こうした課題を解決するためにUdemy for Businessを全社に導入。会社が強制する研修ではなく、個々人が自身のレベルやニーズに合わせて学習できる環境を整備した。この結果、従来に比べて最新技術を習得するスピードが大きく高まったという。

 富士通は、Udemy for Businessを導入して人事戦略と研修制度の改革に挑んだ。同社はIT企業からDX企業への大きな転換を目指すが、体系化された研修の提供ではスピード感に欠けること、そして「会社が求める仕事と社員一人ひとりが望むキャリアの実現の両立」を課題だと感じていた。そこで「自分で挑戦したい人を止めない」という思いのもと、人事戦略をデザイン思考で再設計。ジョブ型人事制度を導入するとともに階層別研修を廃止し、自立的な学びの環境提供として「Udemy for Business」を導入した。これらの取り組みの結果、「学び」が会社と個人の共通言語となり、自立的な学びを後押し。利用した社員の反応も非常にポジティブだという。

 ベネッセでは、この4月から「BUSINESS ONLINE CAMPUS」という新サービスの提供も開始した。DX人材を育てるオンラインの集合研修であり、学習者同士の学び合いや、学びを実務に活用・応用することを実践するという内容だ。飯田氏は「ティーチングアシスタントが伴走することで、独りではなかなか難しい『学習の習慣化』の実現をお手伝いしていきたい」と抱負を語る。