DX(デジタル・トランスフォーメーション)に取り組む企業が急増する中、DX人材の獲得競争も激しさを増している。企業のDX実現を支援するべく多くの大型プロジェクトを手掛けるNRIデジタルは、中核となるビジネスデザイナーを有期雇用する方針を打ち出し、第1号の採用に成功した。あえて有期にする狙いはどこにあるのか。

 野村総合研究所(NRI)の戦略子会社として2016年に設立されたNRIデジタル(横浜市)は、デジタルを活用した企業の事業変革や新規事業の立ち上げを支援する。ビジネスモデルを作る「ビジネスデザイナー」、システムとして実装する「アプリケーションディベロッパー」「プラットフォームアーキテクト」の3職種の人材を集積し、プロジェクトを機動的に立ち上げて運営する。

 これまでは約400人の社員全員がNRIからの出向だったが、2021年から有期雇用に力を入れる。2021年4月には第1号となる有期雇用社員が入社した。契約期間は最長3年。ビジネスデザイナーとしてDXプロジェクトの中核を担う。2021年度に最大5人を有期雇用する計画だ。

DXリーダーが役職より重視するものとは

 同社におけるビジネスデザイナーの定義は「利益を増大させる事業シナリオを考えて実現する人」。「こうやったら面白い」「こうなったら便利」というアイデアにとどまらず、売り上げを生み、さらに利益を確保する一連のストーリーを描ける人材だ。ビジネスデザイナーはDXプロジェクトの成否を左右する中核人材であり、獲得競争も激しい。あえて有期契約での採用に踏み切った理由を雨宮正和代表取締役社長・COO(最高執行責任者)はこう語る。  

 「有期契約を特に変わったやり方だとは思っていない。私自身もコンサルタントだが、社外のコンサルタントに仕事を依頼するのと同じ感覚。プロジェクトの間、コア人材を確保するために法人と契約するか、個人で契約するかだけの違い。ビジネスデザイナーとしての素養と経験を持つ人は、自分のやりたいことへのこだわりが強い。正社員より期間を区切った契約を望むケースが少なくない。」。

 一旦入社すれば継続的に雇用が保証される無期雇用に比べると、有期雇用は不安定な身分だと思われがちだ。「一つの組織で部長や役員をやりたいひとは有期雇用を選ばない。だが、新しいビジネスや社会の仕組みを作りたい人はポジションが欲しいわけではない。それよりも、プロジェクトを完成させるための『いい環境』を欲する。そういう人に我々が選ばれた」と雨宮社長は話す。

 「いい環境」とは、NRIデジタルが採用しているマトリクス型の組織を指す。同社では創業後3年かけて、ビジネスデザイナー、エンジニア、データサイエンティストなどがそれぞれ所属する部署を縦組織としつつ、そこに横ぐしを刺してプロジェクトを組成するマトリクス型の組織作りを進めた。ビジネスデザイナーを中心に、様々なスキルを持つスタッフがサポートしながらプロジェクトを推進する体制を、試行錯誤しながら築き上げた。

 「大きな会社では社内の調整などが煩雑になりがち。そうしたことから解放されて、プロジェクトに全パワーを投入し、自分にないリソースを持つメンバーにサポートしてもらえる。そうした環境を重視する人は部下の数や、個室の有無にはこだわらない」。こう話す雨宮社長は、以前から同業者や顧客企業でビジネスデザイナーの役割を果たす人の多くが、「メンバーがそろうともっと成果を出せるのに」と思っていることに気づいていたという。

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NRIデジタル 代表取締役社長・COO 雨宮 正和(あまみや まさかず)氏 早稲田大学理工学部卒。1990年野村総合研究所(NRI)入社。2013年コンサルティング事業本部パートナー、2016年より現職(写真:稲垣 純也)