日本経済新聞社と日経BP総合研究所は、2021年4月27日・28日の両日に「CHO Summit 2021 Spring 変わる組織、変わるリーダー~ニューノーマルの人材戦略~」(協力・Human Capital Online)をオンラインで開催。人材マネジメントの先進企業のトップや最高人事責任者(CHO/CHRO)、有識者が次世代の人材戦略や具体的な取り組みを披露した。その中から、早稲田大学ラグビー蹴球部(ラグビー部)を優勝に導いた前監督・相良南海夫氏が登壇した基調講演を振り返る。(取材・文=加納 美紀、撮影=川田 雅宏)

チームの一体感の薄さに危機感

 2020年1月、早稲田大学はラグビー全国大学選手権で11年ぶりに優勝、2021年は準優勝という大きな成果を上げた。2018年に監督に就任し、低迷していたラグビー部を優勝に導いた相良南海夫氏が、学生やコーチ陣の意識改革と組織作りについて語った。

早稲田大学ラグビー蹴球部 前監督 相良 南海夫 氏

 1918年に創部し、日本選手権優勝4回、大学選手権優勝16回、関東大学対抗戦優勝36回という大学最多記録を誇る早稲田大学ラグビー部。その常勝軍団が成績不振にあえぐ中で、2018年度に監督の座についたのが相良氏だ。「2018年の創部100周年に大学日本一を奪還する」という期待を背負って就任したものの、当時は9連覇を果たした帝京大ラグビー部の一強時代だった。

 「前任の監督は結果を重視し、120人ほどの部員のうちレギュラークラス40人程度に絞った指導を実施していた。そのため、指導に濃淡が生じてチームの一体感が薄れている状況だった」と相良氏は当時感じた危機感を口にした。

 早稲田ラグビー部は常に結果を求められているが、学生スポーツゆえに人間形成も大事にしなければならない。創部100周年での「強い早稲田」の復活だけでなく、偏りのない組織運営や人材育成の必要性を感じたという。

早稲田のカルチャーに立ち戻った指導と育成

 相良氏は長くラグビーの指導の現場から離れていたため、ラグビーのトレンドには自信がなかったというが「社会人経験を生かした組織の立て直しはできる」と考えた。そこで「100周年の優勝奪還よりも、まずは学生スポーツという前提に立ったチームの立て直しに主軸を置く」と宣言。早稲田ラグビーのアイデンティティーとカルチャーを大事にしながら「緊張・創造・継承」という部訓の下で、次の100年につながるチームの再構築を目指すことを決めた。

 監督就任にあたって心に決めたのは「私利私欲を捨てる」「学生の成長を支援するメンターになる」「自分の考えを押し付けない」「公平性を保って指導する」「プロセスを大事にする」の5点。日本一を目指す姿勢を通じて、ラグビーだけでなく社会のリーダーとなる人材を育てることを目標に据えた。そして、大学選手権で優勝した時だけ披露できる第二部歌『荒ぶる』を歌うことを目指し指導を開始した。

失敗を恐れ、判断力や競争意識に欠ける学生たち

 しかし、指導開始早々、相良氏は現代の学生の問題点に突き当たった。「親が失敗させない、イヤな思いをさせないようにレールを敷いているため、失敗に慣れていない。私自身も高校生と大学生の息子がいたので、反省すべき点だと感じた」と当時を振り返る。

 前任監督のトップダウンによる指導の結果、下位層の部員たちは「練習環境が悪いから、上を目指すのは無理だ」と諦めてしまい、競争意識が欠如していた。相良氏は、当時の状況を「人の目や評価を気にして、何をするにもコーチ陣に確認する。指示待ち状態で自己主張がなく、受け身で判断力も欠如していた。うまくいかないとコーチに責任転嫁するなど問題をすり替える癖もついていた」と語る。

 「モチベーションに差があり、自ら考え行動する組織とはほど遠い」と痛感した相良氏が目指したのは、目的の共有、存在意義の再確認、主体性や当事者意識の向上だった。相良氏は、次のように説明する。

 「問題点を共有し、全員が同じクラブの部員だと意識することが大切。本気で大学日本一をつかみに行くには、トライ&エラーを繰り返して課題を共有し、解決方法を考えて一歩ずつ成長していくしかない。時間がかかるかもしれないが、コーチ陣も含めて意識改革、マインドセットに取り組んで早稲田らしさを取り戻そうと決めた」

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