全社員に経営基幹職登用のチャンスがある新制度
コロナ禍で働き方や管理職のあり方を見直さざるを得ない状況になり、苦労している企業は多い。今後の見通しが不透明な今、管理職や組織にはどんな変容が求められているのか。
1985年の通信自由化を機に創業した第二電電が、通信インフラを構築し急成長している最中に入社した白岩徹氏。同社は2000年にケイディディ、日本移動通信と合併し、KDDIに社名変更して現在に至っている。白岩氏は営業企画部門やカスタマーサービス部門で22年務め、「青天の霹靂(へきれき)」で人事部に異動になったという異色の経歴を持つ。「事業畑が長かったので、顧客満足度を上げる前に、まずは社員をエンパワーメントすることが重要だと感じている。個々の社員のエンゲージメントを高めることが結果として会社のパフォーマンスを上げると信じているので、そこに関われることにやりがいを感じている」と話す。
KDDIの人事制度はもともと年功序列的要素が強いものだったが、2013年度から管理職には担うミッションの大きさを報酬に反映させるミッショングレード制度を導入した。さらに経営陣と2年ほど議論を重ね、2020年8月にはKDDIのカルチャーやフィロソフィを大事にした“KDDI仕様のジョブ型制度”を導入。役割定義や位置づけが曖昧だった管理職を廃し、組織を率いるリーダー職やプロジェクトを率いるエキスパート職を定義した「経営基幹職」を創設した。経営基幹職は、年功ではなく、定義された役割を担う社員を任用するものであり、評価によって入れ替えも実施する。
モデレーターの須東が「エキスパート職も経営基幹職になれるのは画期的。制度導入の経緯は?」と問うと、白岩氏は「昨今は自分のスキルや得意分野を磨いてきた学生が入社している。旧来の制度では若手にはなかなか管理職の順番が回ってこないので、若手登用のチャンスを作った。また、これまでのように“管理職になれば安泰”では危機感が欠如し、会社の成長を阻害する可能性もあった。管理職には降格がないため、管理職の人数が増えすぎたのも事実」と実情も吐露した。
「そこで、経営基幹職は会社貢献度を評価して入れ替えを行うことで緊張感を保ち、人数を一定に保つことにした」と白岩氏は語る。経営基幹職はメンバー評価のプロセスに1on1を用い、社員の成長をサポートする役割を担う。この新しい人事制度の中では、ダイアログや対話の力はますます重要になる。
さらにKDDIでは、2021年度からタレントマネジメントシステムを一新。保有するスキル・経験、どう会社に貢献したいかを本人の希望で開示できるシステムを構築した。これにより人事異動が一変する可能性があり、人事制度とマッチすることが期待されている。「今年度はこれらの制度をワークさせる正念場と位置づけている」と白岩氏は力をこめた。
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