人的資本経営の先進企業であるカゴメは、「年功型」から「職務型」等級制度への移行や、より業績/評価と連動した報酬制度への改革、メリハリを付けた明確な処遇の実現などを次々と実現してきた。その基盤となったのが「グローバル・ジョブ・グレード」だ。
2021年6月末に人的資本経営の実現に向けた研究会を発足した。日本を代表する企業、世界でも有名な外資系企業など30社のCHO/CHRO(最高人事責任者)の方々にご参加いただいた。
2020年米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に対して人的資本の情報開示を義務づけると公表し、11月9日に新しい規則を発効。これに対応して2020年11月までに提出された上場企業149社の78%の年次報告書では、人的資本に関する定性的/定量的な指標による情報開示が行われた。(参照記事:『米国では149社が人的資本を開示、コロナ禍で企業の対応が試される』)
日本でも同様に人的資本の情報開示が求められることが予想される。そこで、人的資本の強化に取り組まれている第一人者の方々に「人的資本経営」を実現するための課題と課題解決に向けて考えること、行っていくべき事などお話いただいく場として発足したのが上記の研究会だ。第一回は学習院大学守島基博教授とカゴメ常務執行役員CHO有沢正人氏とお迎えしてお話いただき、議論を行った。ここではカゴメ有沢常務の講演をダイジェストでお伝えする。
本連載の第1回で私が考える人的資本経営のポイントとして6つの項目を挙げた。カゴメの取り組みはすべてに当てはまるが、特に以下の項目を実践する好例といえるだろう。
1.経営戦略と人事戦略を連動させる
3.「人材こそが価値を生み出す」という信念を形にして発信する
6.リーダー人材を見える化する
特にこのポイントを心に留めて、有沢氏の講演録を読んでほしい。
経営戦略と人事戦略を連動するためには
有沢氏は2012年カゴメ入社。まず手始めに役員人事制度改革に着手、一律だった報酬制度や評価制度を新たに構築し、ストックオプションも導入した。その後、経営戦略と人事戦略の連動を推進するための基盤作りを行った。そこにおけるポイントは「上(役員)から変えるとともに、外(海外)へも同時に導入すること」。ここで全ての施策の基盤となったのが「グローバル・ジョブ・グレード」だった。
さらに事業戦略と人事戦略の連動を推進するために、「年功型」から「職務型」等級制度への移行、より業績/評価と連動した報酬制度への改革、メリハリを付けた明確な処遇の実現をポイントに人事制度改革を行った。この改革によって、仕事の成果・価値が明確になり、健全な競争意識のもと抜擢人事が進み、組織と個人の成果最大化が図ることができた。
こうした背景には、2016年に打ち出した「トマトの会社」から「野菜の会社」を掲げた長期ビジョンがある。トマトから野菜へ事業領域を拡げ、野菜を提供することを通じて「健康寿命の延伸」「農業振興・地方創生」「食料問題」といった社会問題を解決していくという目標を明確に掲げたのである。
こうしたビジョンを実現するうえで、新たな人事戦略が求められた。
もともと、カゴメは従来より女性からより支持される事業を手掛けており、各職位において女性比率を半数にすることは必須である。さらに「トマトの会社」から「野菜の会社」に、を実現するためには、多様化する消費者ニーズに対応しなければならない。そこで従業員それぞれの多様な視点を活かし機能させることで、組織のパフォーマンスを最大化させ、新たな価値を創造して勝ち残るための武器としようという発想が生まれた。その実現のため、今後増えていく、働く上で時間や場所などの制約を伴う従業員をはじめ、全従業員それぞれが能力を発揮できる「働きやすい環境」をつくるために、ソフト面(相互理解・尊重の土壌づくり)とハード面(制度、しくみ整備)の両方の施策を展開した。
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