急速なデジタル化や脱炭素化を背景に企業の経営戦略は大きな転換を迫られており、企業の「資本」となる人材像が根本的に変わろうとしている。そうした人材を育てるには従来の育成方法は通用しないのではないか―。2021年12月、経済産業省は「未来人材会議」を立ち上げた。この会議では産学官の有識者が採用や雇用、教育に至る課題を議論・検討し、2050年の未来を見据えた人材育成の絵姿を示すことを目標とする。未来の日本を担う人材を輩出・確保するための要点は何か。経済産業省大臣官房未来人材室長の島津裕紀氏に聞いた。

産業界・教育界の議論を統合し、2050年の人材像を描く

 未来人材会議には前・文部科学大臣を務めた萩生田光一経済産業大臣が出席、座長を柳川範之東京大学大学院教授が務める。産業界からは南場智子ディー・エヌ・エー代表取締役会長、東原敏昭日立製作所執行役会長兼CEO、宇宙事業スタートアップの岡島礼奈ALE代表取締役CEOが出席、教育界からは大島まり東京大学大学院教授、木村健太広尾学園医進・サイエンスコース統括長が出席する。官からは、経済産業省のほか、文部科学省、厚生労働省がオブザーバーを務める。

 中長期の視点での雇用・人材・教育の議論は安倍政権の「日本再興戦略2015」や菅政権の「成長戦略会議」といった場でも行われてきた。なぜ、このタイミングで議論をスタートしたのか。会議事務局を務めるのが経済産業省大臣官房未来人材室長の島津裕紀氏だ。島津氏は「2021年に発足した岸田政権では“人への投資”の強化を掲げている。グローバルな企業間競争は一層激化するなか、日本の産業競争力は低下し続けている。新型コロナとの闘いも、今なお続く。これまでの政権の議論と異なり『人』に関する危機感のステージがさらに変わってきた今、中長期を見据え、企業が変われば教育も変われるのではないかという視点で、新たな会議体を作った。経済産業省としての人材政策全体も、改めて未来人材室で束ね直していく」と話す。

島津 裕紀 (しまづ・ゆうき)氏
島津 裕紀 (しまづ・ゆうき)氏
経済産業省 経済産業政策局産業人材課長、(併) 大臣官房未来人材室長 2004年経済産業省入省。航空機産業政策、再生可能エネルギー政策、原子力政策など担当した後、大臣官房総務課を経て2021年より現職。経産省の人材政策責任者。人的資本経営の推進、多様な働き方の環境整備、リスキル政策などを担当。(撮影:川田雅宏)

 加速度的なデジタル化の進展と世界的な脱炭素の潮流により、日本企業の強さを支えてきた人材の能力とは根本的に異なる能力が求められている。加えて、生産年齢人口も2050年には現在の3分の2まで急速に減少すること[注]をふまえ、島津氏は「より少ない人口でこの国の魅力を維持し、グローバルから選ばれる国になるためにも、これまでと違う人材の育て方が必要だ」と力を込める。「ただし、企業側がこの課題を直視し、必要な人材像を発信できているのかについては課題を感じている。一方の教育機関にも、時代が求める人材を察知し、新たなカリキュラムを創っていくことが求められる。人材育成には時間がかかる。2030年、2050年の未来を見据えて求められる人材像を定義し、バックキャストで施策を検討したい」と語る。

[注]第一回未来人材会議事務局資料より