キャリア類型と育成に関する疑問に関して解き明かしてきた。今回は、多くの日本企業が直面する問題について考えていきたい。それは「部門を超えたローテーション」だ。多くの日本企業は職位(職能等級)を維持したままで、部門を超えたローテーションを平気で行っている。なぜ、このような一見非合理的な荒業が行えるのか。そのメカニズムを考えていく。

(写真:123RF)
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 前々回キャリアの3類型について、読者から寄せられた質問を紹介しました。今回は質問2の「ローテーション」について考えてみます。「一つひとつの仕事のタイプ分類は容易だが、複数の仕事をローテーションしていく場合はどう考えるか」ということです。

 確かに、どの企業でも営業と管理部門では必要な専門知識(アプリケーション)も人的能力(OS)も異なりますね。しかも、営業は短期促成型のTypeBで、管理部門は長期育成型のTypeAだったりと、キャリア類型まで異なることがあります。欧米のように各部門に閉じて、別々に採用・育成するのなら話は簡単です。日本の場合、部門にとらわれない総合職として採用し、勤務地や時には職種まで会社主導でチェンジし、「ジェネラリスト」型の人材育成を行います。こうした場合、部門ごとのキャリアの違いをどう乗り越えていけばよいのでしょうか?

「主+副」という日本型キャリア形成

 

 本論に入る前に、まずは日本型に対する誤解を解くことをしておきましょう。前著『人事の組み立て』でも書いた通り、日本でも、俗に言われるほど、他職務への異動は起きてはいません。たとえば、営業を起点に、総務→人事→経理→システム→広報→生産管理……などとグルグルと部門を超えた異動をし続けている社員は、そう多くはないでしょう。

 基本となるのは、どこか1つのポジション(たとえば営業)をキャリアの主軸とし、そこから1つまたは2つ程度、別部署を経験して、また主軸に戻るというような動き方です。そこから故小池和男(法政大学名誉教授)氏は、日本のキャリアはジェネラリストではなく、「主+副」だと主張されていました。

 もしくは、この流れで異動した「副」の方で肌合いが合い、そこが今度は「主」になるという片道切符型のキャリアも、そこそこ多いでしょう。そうではなくて、世に言うタイプのグルグル型キャリアの人は、たとえばエンジニアを卒業した人や、一部半官半民系の企業でのエリート層といったほんの少数に限られるはずです。

 なぜ、「日本人はグルグル回る」という誤解が根強く染みついているのか。その理由として、私は官公庁(とりわけエリート)と大学の職員が、まさに「グルグル」型のキャリア形成をしているからではないか、と考えています。官僚や大学教授といったオピニオンリーダーたちが、周囲を見回せば、そこにはグルグル型が広がっている。だから彼らが誤解し続け、そして、その誤解が言論界にまで及ぶ、ということです。

どの役職にも「何とかやっていける仕事」が存在する

 さて、ではなぜ「副」として他部署を経験する必要があるのでしょうか? 欧米でも将来が嘱望される人たちは、「マルチファンクション、マルチジョブ、マルチリージョン」など多職務・他地域経験型の育成が施されます。ただ、それは限られたエリート層に対してであり、日本のように下々までの多くの人がポジションチェンジを経験したりはしません。確かに、他職務・他地域を経験すれば、視野は広がり、また、相手方の気持ちに配慮する癖もつくので、社内融和にも有効でしょう。他部署とのコネクションもできます。そうしたメリットは認めますが、それにしてもなぜ、ここまで多くの人に他部署を経験させるのでしょうか?

 欧米であれば、総務・人事・購買・生産管理・広報宣伝など、すべての部署に、その専門家(といってもそれほど高レベルな人ではありません。その道で仕事をしているということ)がおり、彼らをジョブ型でポスト限定雇用することになります。足りなければ外部労働市場から彼らを雇い、業務遂行に問題があるなら、長い試用期間の間に解雇し、部署縮小の際には整理解雇をする。彼らはその道に通じているから、そこそこのパフォーマンスは出す。

 日本はなぜ、こんな方向に進化できないのか?

 この問いに答えを出す前に、一つ考えてほしいことがあります。たとえば文系人材のローテーション先として選ばれる部署には、総務・人事・購買・生産管理・広報宣伝などが比較的多く見られます。が、経理や法務になるとグッとその数は減ります。そして、当然ながら技術部門への異動はもう絶無に近い状態です。つまり、ローテーションするといっても、その送り出し先はけっこう限られていることに気づいてほしいのです。 なぜでしょうか?

 企業人の経験が長い人であれば、苦も無くその答えは分かるでしょう。経理や法務や技術部門は、専門性が強く、確固たる技術・知識がない限り、職務遂行ができないからですね。誤解なきように言っておきますが、もちろん、総務や人事、購買、生産管理、広報宣伝にも専門性は必要です。

 ただ、案外、そうした専門性がなくとも、何とかやっていける仕事もけっこうある。しかも、そうした「何とかやっていける仕事」が、ヒラの雑用だけでなく、係長、課長、部長と各役職レベルごとに、内容や難易度こそ異なれ、やはり存在するのです。だから、どのランクの人が別職場からやってきたとしても、一端はこの「何とかやっていける仕事」を任せる形で引き受けが可能。こうした仕事をこなして、1~2年程度で元の「主」務に帰参するか、もしくはこうした仕事をしている間にその部署の専門知識や技術を身に付けてそのまま長居するか、というキャリアとなる。つまり、「何とかやっていける仕事」がキャリアのステップボードになっていると言えるでしょう。

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