「若手が育たない」「上司が育てられない」と愚痴を言う人事・経営者は多い。ただ、その多くは、若手や上司ではなく、経営や人事の問題だ。育成の実作業はもちろん現場で行うが、その前に、育成の絵図(成長と儲けの階段)は現場ではなく、人事と経営で作っておかなければならない。かつて日本メーカーが強かったのは、仕事表という名の「成長と儲けの階段」を、人事と経営が作っていたからに他ならない。

(写真:123RF)
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 トップエクステンション=LDPについての解説が終わったところで、今度は現場での一律型育成=ボトムアップ施策について考えてみたいと思います。

 再度書いておきますが、えてしてHRBPがこの部分を見落としがちなことは大きな問題です。 若手社員が育たない理由は、「本人の問題」「上司の問題」ではなく、たいては、社として成長の階段があいまいであったり、もしくは間違っていることにあるのです。

 以下、成長の階段とは何かをもう一度、実例を交えて考えてみましょう。

成長の階段=儲けの階段なら、育成は自ずから進む

 まず、人事が作る階段はともすると、よくわからない「能力」や「知識」を等級化し、結果、意味のない修行を強いることになりがちです。そうした空虚な階段と、成長の階段の一番の違いは何か。それは、「階段を上るたびに、会社は儲かる」つまり、成長の階段 は事業的にみれば「儲けの階段」となっていること。ここを押さえてください。

 何も、お金や利益に直接つながらなくてもかまいません。この階段を上って必要な能力を身に付ければ、業績・影響度・職掌範囲など会社への寄与度が確実にアップする。だから給与をアップさせても、会社が損することはない。むしろ、大いに儲かるのだから、その幾分かを本人給与として還元することにやぶさかではない。そういう設計にしておく。

 そうすれば、組織は進んで若者を育成するようになるし、本人は成長によって会社への貢献度合いが高まり、同時に給与も上がるから、喜んで階段を上る。こういう良いサイクルが出来上がるわけで す。かつて、日本のメーカーでは高卒新人を育て上げるために、仕事表と言うものを作り、習熟度と与えるべき業務を明確にして、育成をプランニングしていました(小池和男氏や中沢孝夫氏の著作などを参照ください)。

 ホワイトカラー主体となった現在の日本企業でも、明文化こそしていませんが、その名残はあります。実例を見ておきましょう。

メガバンクに見る「儲け=成長」の階段

 たとえば、ひと昔前のメガバンクでは、以下のような「成長の階段」が整っていました。

<入社直後の1~2年>
◇窓販と個人向け融資(住宅ローンが主)
◇同時に、行内資格や一般資格を10個程度取得
 資格勉強をしながら金融の基礎知識をつけ、それを住宅ローン融資という「少額で焦げ付きが少なく、営業もプル型(相手からきてくれる)で簡単」な業務に携わりながら、実践します。結果、金融の基礎知識・基礎ルーチンが徹底的に身に着くわけです。

<入社3~4年目>
◇小規模法人の融資担当
 ようやく外に出て、法人回りを始めます。最初は融資額の小さな法人が相手となるでしょう。融資に至るまでのルーティン自体は、住宅ローンと似ているので、金消(金銭消費貸借)契約→実行という手順は一緒ですが、法人になると、バランスシートが絡み、与信などにも時間がかかるようになります。こうした部分では、前段階で取得した簿記知識などが生きてきます。
 そしてこの時期、もう一つ新たな力をつけます。それは、「年長の経営者と対等に話す」という行為。この力を培うことは大きい。銀行員は「経理も分かり」「社長と対等に話せる」貴重な営業スタッフであり、これら能力を有するから若手銀行員は、転職市場でも高く評価されるのであります。

<入社5~6年目>
◇中規模法人の融資担当
 法人融資になれたところで、融資金額の大きい中規模法人を持たされるようになる。金額が大きいと、融資にもいくつか変化が起きます。
 たとえば、手形の期間が長くなること。
 そして、1行では資金需要を賄い切れないので、数行が連携して融資を行う(協調融資・シンジケートローン)こと。

<入社7~8年目>
◇準大手法人の資金繰り
 ここでまた、融資スタイルに変化が生まれます。
 期間が長くなった手形は、やがて、社債となり、企業の資金調達は銀行貸し出しという間接融資から、自社で集める(銀行はそれを手伝う)という直接融資に変わる。これも、長い手形やCPを扱っていた経験があるからこそ、できるわけですね。
 また、メインバンク制を敷くことになるでしょうが、これも、中規模な協調融資で慣れているからこなせるのです。

<入社9年目以降>
◇大手法人の資金繰り
 大手になれば、加えて株式発行なども加わります。これとて、社債で経験した直接融資の延長線にあり、それがステップになっています。  こうして、十数年の間、きちんとステップが続き、多くの銀行では、適齢資格試験など、その習熟度に個人差がないか、見極める制度もありました。そして、ステップに応じて、融資金額=儲けが増えていく。だから、20代の間結構な額の昇給を続けても、会社としては損をしない。

 実にうまく「成長の階段」ができているわけです。

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