この連載をまとめた書籍『人事の企み』が発売される。解説を寄せたのは、海老原さんが師と仰ぐ労働政策研究・研修機構(JILPT)研究所長の濱口桂一郎氏。第一~第四作戦のそれぞれに異論・反論も差し挟みつつ、『人事の企み』のより深い読み解き方を指南する。

(写真:123RF)
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 『人事の企み』書籍化にあたり、私が師と仰ぐ雇用のご意見番、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)研究所長の「hamachan」こと濱口桂一郎氏に解説をいただきました。今回は書籍発行に先立って公開します。

 師匠に解説をしていただけるなんて、この連載をやっていて一番のご褒美です。今までの稿料返します(嘘)。内容もお褒めと叱咤が相半ばするところで、これを読めば読者の皆さんも、自由に意見を言いたくなるのではないですか。まさに、議論の糸口!  


 はじめに一言お断りを。これは完全なミスキャストです。本書の解説を濱口桂一郎などという奴に書かせるという人選は。

 前作の『人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ』であれば、ほぼ志を同じうする友軍として、世にはびこるもっともらしいインチキジョブ型論を撃滅するその勇猛果敢を称揚する解説文になったことでしょう。まあ、それはそれでどれだけ意味があるのか分かりませんが。

 ところが本書は、今読み終わった読者諸氏もお分かりのように、徹底して人事労務の実務―「戦略」などという偉そうで役に立たない代物ではなく、まさに人事の現場の「戦術」「作戦」―を伝授しようとしている本です。

 ということは、ばばっちい古文書と横文字の謎文書を持ち出して知ったかぶったかしているだけの濱口桂一郎などという野郎がしゃしゃり出る余地はほとんどないということです。だって、自慢じゃないけど、40年近くの職業人生の中で、人事労務実務に直接携わったことなんて一度もないんですからね。あえて言えば、直近数年間は職場の管理者として否応なしに人事に(も)関わらざるを得ず、メンバーシップ型組織の矛盾を(改めてしみじみと)感じることも多いのですが、それって日本中の何万という管理職諸氏が日々感じていることとなんら選ぶところはなく、本書の解説をする上でなんら取り柄になるようなものではありません。

 なので、これから書くことは、解説になっていません。ただの感想+妄言です。読み終わってから文句を言われないように、あらかじめ釘を刺しておきますね。

日本型雇用のあれこれが、優秀な女性社員の活躍を妨げている

 さて、第一作戦はそれでも若者や女性、外国人の活用というマクロ政策とつながりのあるテーマを取り上げています。そして、そこで唱われる海老原節に対して、いくつかの異論というか、議論の余地があります。

 まず、ここ30年で大卒者は急増し、高卒者は激減している。それは事実です。だけど、だからホワイトカラーは人材不足にならず、現場のブルーカラーが絶望的な人材不足になる、というのは、ちょっと違うんじゃないかな。それって、裏返していうと、大卒の就職はけっこう厳しいけれど、高卒は引く手あまたで金の卵状態、みたいな話だけど、過去30年間の新卒市場で見れば、増加する大卒者よりも減少する高卒者の方が遥かに正社員就職できずにフリーターやニートに追いやられたんですよ。

 振り返れば、終戦直後から高度成長期までの日本では、高卒者というのはホワイトカラー要員でした。大部分のブルーカラーは中卒者だったんです。彼らがほとんどいなくなった後を埋めたのが急増した高卒者であった、という歴史を、学歴を一段階上げてなぞっているようにも見えます。このあたりは海老原さんも『若者はかわいそう論のウソ』で書いてましたね。ただ違うのは、中卒者はほぼ絶滅に近いところまで減ったけれども、高卒者はまだ一定数残っているということ。

 ホワイトカラーの需要が減った高卒者ですが、1990年前後までは製造業と建設業が大量に受け入れていた。だから今の5倍も新卒採用の口があったわけです。それが「工場の海外移転、農業の輸入依存度上昇、公共事業削減などで、この領域の人材ニーズが減った」と書かれていますね。そして、「それが2010年代に底打ち反転」と続きますが、こうした領域は、基本、非正規に代替されて、それが漸増するだけでしょう。再度書きますが、今後も高卒者が金の卵となることはないということです。

 女性が大学に進学し、それまでの男性正社員と同じコースに乗るようになったことが、過去30年間の日本社会で起こった最大の変化だというのはまったくその通り。面接してみたら、応募してくる男子学生はどいつもこいつもろくでもない奴ばっかりだけれども、女子学生は誰もかれもがみんないい人材に見える、ってのも、もう20年以上前から実感されていたはず。でも、採用戦略に焦点を当てている本書では射程外かも知れないけれど、そういう優秀な女性社員たちがぶち当たる日本型雇用のあれこれが、その活躍を妨げているのも事実なんですね。もちろん海老原さんはそこんとこはよく分かっていて、そこを猛爆撃している『女子のキャリア』って本もあるんだけど。