10年後、20年後に実を結ぶ人事施策を考えても、経営層や現場にはなかなか理解されない。やりたい方向性を定めたら、複数の制度や施策を組み合わせて実現していく周到さが必要だ。

中野宗彦氏(以下、中野):ここまで議論が想定以上に白熱し、残り時間が少なくなって参りました。次の「人事の問題」に移ります。フリップ3を見ていただきます。人事のつくる制度が現場の事情と乖離し、制度自体が忌避されていないか。曽和さんは「制度が重要なわけではない。採用と風土により人は育成される」と著書でも書いていますが、この点、いかがお考えでしょうか。

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現場の意見を聞いて制度をつくってはいけない

曽和利光氏(以下、曽和):人事はよく現場から嫌われるんです。「会社の回し者」と見られてしまう。新卒で入ったリクルートで人事に配属された私は、同期の飲み会で「お前、いま人事の目をしたな」と仲間にからまれたことがありました。

 でも嫌われ者だから、作った制度が現場と乖離するわけではない。逆だと思うんです。嫌われ、煙たがられているのは分かっている。だからこそ、制度をつくるときは丁寧に現場のヒアリングをやらなければならないと。その結果、現場で聞いた意見をもとに制度を作ってしまう。これが駄目なんだと思います。意見を聞くのではなく、現場の人の行動を観察する。声なき声も勘案し、あるべき姿を思い浮かべながら、最善の制度を作っていく必要があるのです。

曽和 利光 氏
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曽和 利光 氏
人材研究所代表取締役社長。愛知県豊田市出身。灘高等学校を経て1990年に京都大学教育学部に入学、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当、最終的にはゼネラルマネージャーとして活動したのち、オープンハウス、ライフネット生命保険など多種の業界で人事を担当。「組織」や「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法が特徴とされる。2011年から現職。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を越える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開する

中野:スティーブ・ジョブズと同じですね。消費者調査を行って構想するのではなく、自ら消費者が必ず喜ぶであろう製品をしっかり構想し、創り上げると。

曽和:その通りです。そういう意味では、意見だけを聞くのは止めたほうがいい。現場と乖離しない制度をつくりたいのならば、対象となる社員の皆さんのパーソナリティを調べ、こういう特性の集団だったら、こういう制度がいいだろう、というイマジネーションを働かせたほうがいいかもしれません。

現場の信頼感を醸成せよ

中野:最近の流行だから、現場の声も聞かず、まずは入れてみる。この姿勢が不整合を起こしがちなんでしょうね。現場の意見をただうのみにするのではなく、現場の価値観やパーソナリティ考慮した上で制度をつくり、導入していくのが、より好ましいのかもしれませんね。

中野 宗彦 氏 
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中野 宗彦 氏 
ノイエ・ジール代表取締役社長 リクルートで総合企画部マネジャー、神戸支社長を歴任し、大手から中堅、ベンチャーまで日系・外資系企業を幅広く担当。その後、リクルートエグゼクティブエージェントで経営層のエグゼクティブサーチを経て、日系上場メーカーの人事制度企画に従事。人事制度・採用コンサルティング会社を起業(現職)

海老原嗣生氏(以下、海老原):その通りだね。繰り返しになりますが、流行っているからうちも入れなければ、という「横並び」、社長が言っているんだから、という「経営都合」、この二つで人事が動くと、かなり現場が混乱します。一方で、現場に問題がある場合も多い。何となく停滞感が漂っていたり、意識の緩みや悪癖がはびこっていたりする時は、それらを排すために、断固とした施策を打ち、一時的に「嫌われる人事」になる覚悟が必要です。

 ただ、それができる前提として、「人事はよく分かっている。だからこれをやっているだ」という納得感を現場から得ていなければ難しい。自己保身ではなく、本気で会社の将来を考えているからこその施策なんだと思ってもらえないと。そうした現場の信頼感を醸成するお膳立てがまず大切なんです。それができていない人事が多いことが問題です。