薬に主作用と副作用があるように、人事の施策にも副作用が必ずある。ところが、多くの領域において、主作用だけが声高に主張されがち。その典型例がリファラル採用における紹介インセンティブだ。(写真:三宅弘晃、編集協力:荻野進介)

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中野宗彦氏(以下、中野):私も伊逹さんの近著『人と組織の行動科学』(すばる舎)を興味深く拝読いたしました。そのうち、すべての施策には副作用があるというお話が特に印象に残っています。 例えば、昨今、多くの会社で進めているリファラル採用。社員の知人、友人を積極的に紹介してもらう採用手法です。良いことばかりに思えるリファラル採用ですが、当然副作用もあると。伊逹さん、そのあたり、詳しくお話いただけますでしょうか。

伊達洋駆氏(以下、伊達):了解しました。リファラル採用そのものというより、リファラル採用において設定される紹介インセンティブの副作用ですね。リファラル採用を進める企業の中には、社員が知り合いを人事に紹介すると、何らかのインセンティブが支給される仕組みになっています。インセンティブが発生するわけですから、当然、知人や友人を紹介しようという行動を取る人が増えます。これはリファラル採用に関する研究でも実証されています。

 問題はそこからです。そのうち、お金欲しさに、知り合いではあるけれど、特に親しくない人や、自社に合っていない人まで紹介してしまう。そうなると、能力の低い人や社風にマッチしないような人が混ざることになり、人材の質が低下してしまいます。

 薬に主作用があれば副作用もあるように、人事の施策にも副作用が必ずあります。ところが、これはリファラル採用における紹介インセンティブに限ったことではありませんが、現状は多くの領域において、主作用だけが声高に主張されている。これは憂慮すべき事態だと思います。

伊達洋駆氏 ビジネスリサーチラボ代表取締役
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伊達洋駆氏 ビジネスリサーチラボ代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。 修士(経営学)。 同研究科在籍中、2009年にLLPビジネスリサーチラボを、2011年にビジネスリサーチラボを創業

海老原嗣生氏(以下、海老原):まあそれ以前に、こういうリンクトインとかって結局は、転職エージェントやソーサーなどのプロが叩くためにあるんですけど。

中野:エージェント出身者で、また企業内リクルーターの経験者としては、そのあたりだけでもお話ししたいことが多々ありますが、本題に戻して「なぜ副作用は見落とされがちなのか」にスポットを当てましょう。

風が吹けば、桶屋は本当に儲かるのか

伊達:学術界、産業界、双方に同じ問題があります。ある領域の課題に取り組む研究者はそれが意味あるものだと考えているからこそ、取り組んでいるわけです。広めたい、推進したい、という気持ちがその背後にあります。リスクや副作用についてわざわざ触れたいとは思わないのです。

 産業界もそうです。たとえば、海老原さんがご指摘のように、HRテックのベンダーはそれを売りたいのですから、同じように、リスクは副作用について積極的に触れる動機がありません。

海老原:日本では昔から、人づて、あるいはコネという名のリファラル採用が多い。求人広告に次ぐ第2位の採用方法です。しかも、企業規模が小さくなるほど、その傾向が強くなる。

 でも、その割合は採用全体の2割以上には伸びません。なぜかといえば、それこそ、人づてだからです。限界があるのに無理して伸ばすと、人材の質が薄まり、やばくなる。実際、それが起きているのがアメリカです。社員が紹介インセンティブ欲しさにリンクトインなどのリファラル・プラットフォームにアクセスし、「かすかにかすった友人」を呼び起こして、「うちに来ないか」と口説き、紹介してしまう。自分で自分の友人になりすまし、ちゃっかりインセンティブももらうというひどいケースも出てきているようです。

 風が吹けば桶屋がもうかる、ということわざがあります。リファラル採用がうまくいけば、いい人材が獲得できるはそれと似ています。いい人材を獲得するには、リファラル採用を活発化させることなのか。つまり、桶屋がもうかったら、風が吹くのでしょうか。リファラル採用推進者には両者の因果関係に関する無理解があるとしか思えません。

伊達:風が吹くことだけを強調するのは問題だと思います。例えば、リファラル採用の有効性は学術研究で検証されています。しかし、「リファラル採用を行えば、すべてがうまく行く」というのは言い過ぎです。桶屋がもうかるためには、それこそ、良質な桶をつくって、一生懸命、売る必要があります。

 ある一つの現象がうまく行けば、様々なことがうまく行く。そういった言説には穴があります。決してだまされてはいけません。リファラル採用そのものの有効性は学術的にもいくつかの研究で検証されています。他の手法よりもマッチングの精度は高い。しかし、「リファラル採用を行えば、すべてがうまく行く」というのは言い過ぎです。ある一つの現象がうまく行けば、様々なことがうまく行く。そういった言説には穴があります。慎重に見極めましょう。