「AI(人工知能)が仕事の大半を代替する時代がすぐそこまで来ている」。こんな予言が世の中に大きな衝撃を与えたのは今から8年前。しかし代替はさほど進んでいるようには見えず、人手不足も相変わらず深刻だ。

(写真:123RF)

 日本の生産年齢人口(15~65歳)が減少に転じてはや25年、その減少幅は1300万人にもなります。対して産業界は以下の3つの方法で人材不足をしのいできました。

1.衰退産業からの人材流出
2.女性の社会進出
3.高齢者の就労継続

 ところがこの3つとも、もうすでに使えない状況となっています。衰退産業は就業人口が底打ちして、逆に人材不足感が高まり出しました。女性の社会参加は量から質への転換期であり、正社員総合職や管理職などは増えていきますが、パート非正規従業者は減っていく。そして、高齢者は働き手として有望な前期高齢者が激減し、後期高齢者のみ大幅に増えていく……。前回はこんな実態を取り上げました。上記の人材が担っていた流通・サービス業などの非ホワイトカラー領域に、とてつもない人材難が押し寄せることが火を見るよりも明らかなのです。

 こうした苦境への新たな対策として一番手に上げられるのが、「AIやITを活用した省力化」でしょう。ただ、私はこの意見に首肯できません。私以外にも雇用を子細に見ているこの分野の専門家の多くは「簡単にはいかない」と口をそろえます。そう、「AIやITで解決可能」と言う“識者”のほとんどは、労働・雇用の門外漢なのですね。

 今回は、「非ホワイトカラーの人材難は、AIやITでは解決しない」、とりわけここ10年の中期スパンでは難しいという話を書くことにいたします。

あれ?AIで仕事がなくなってるんじゃなかったの?

 まず、AIによる代替論の有名なものをざっと振り返っておくことにしましょう。

 世間が「AIで仕事がなくなる」と騒ぎだしたきっかけとなったのは、2013年に発表された英オックスフォード大学のマイケル A. オズボーン准教授とカール・ベネディクト・フレイ博士の共同研究による論文です。日本でもこの論文の推定手法を援用して、野村総合研究所(野村総研)が2015年に大掛かりなレポートを発表しています。

 前者は、時期こそ明確にしていませんが、AI(機械)により人間の仕事の9割以上が代替できるという趣旨でした。後者では15年程度で5割弱の仕事がなくなると、こちらはおおよそですが時期も明らかにしています。

 さて、それからすでに幾星霜ですね。フレイ&オズボーンからは8年、野村総研レポートからも6年(研究時期からは7年)たちました。9割代替されるとか、5割なくなるとかいうのであれば、もう1~2割の仕事は消え去って、失業率が数倍に跳ね上がっていてもおかしくありませんね。にもかかわらず、世界中どこを見ても、まだコロナ禍から立ち直ってもいないぜい弱な経済下なのに、人手不足が深刻化しているのです。

 ずいぶんとおかしくはありませんか?そう、これらの論文は「はずれた」とそろそろ誰かがしっかり振り返るべきでしょう。