外国人技能実習生については、「死亡」「失踪」などの衝撃的な数字がクローズアップされがちだ。だが数字をよく精査するとイメージとは異なる現実が見えてくる。

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(写真:123RF)

 この10年における労働環境の変化は、大きな要素として少子高齢化があり、これに、高学歴化が重なります。結果として、人口は減りましたが大学生は増え、ホワイトカラーについては充分な基礎人材が補充されるので、あとは男女共同参画を進めることで、質も担保できます。一方、少子化と高学歴化の両方により非ホワイトカラー人材、とりわけサービス流通業は壊滅的な打撃を受けており、2022年からは前期高齢者の激減も始まるため、早急に対応を考えていかなければならないでしょう。

 AI(人工知能)による省力化が思うように進まないなか、最後の切り札となるのが外国人就労です。前編となる前回は、主に留学生が、新卒就職→永住権取得という流れで続々と「日本人化」していく、飲食・サービス・流通業の幹部候補人材について書きました。

 今回、いよいよ迫るのが、こうした産業で現場作業に就く非幹部候補人材―その中核は技能実習生(及び新たにできた特定技能者)です。世の中には技能実習制度に対して悪い情報があまた流れているので、私も正直、なかなか気が進まないテーマではあります。が、あえて現実を説明することにいたします。

衝撃的な数字が並ぶ実習生報道、だが現実は…

 2019年3月末の全国紙には、こんな衝撃的な記事が掲載されました。

 「6年で171人死亡 摘発721人 企業に不正疑惑」。背筋が凍るような話なのに、これに続く記事を読むとさらに胸が痛くなってきます。いわく、失踪した技能実習生5218人を法務省が調査したところ、そのうち少なくとも721人が実習先で最低賃金違反などの不正行為を受けており、2012~17年の死亡例は171件に上ったというものです。

 一見すると、5218人の失踪者のうち171人が死亡しているように見えます。ところが、これは12~17年の6年間の全技能実習生をベースにしたものです。年平均だと30人弱。技能実習生の在留者数は2012年で約16万人、2017年では約27万人もいます。彼らの年齢的なボリュームゾーンは、25~34歳で、この年代の日本人の年間死亡率は、人口10万人当たり50人程度。同じ割合で技能実習生も死亡したと仮定した場合、年間80~135人程度の死者が出てもおかしくありません。そうしたことを考え合わせると、「6年で171名、1年当たり30人弱」という現実は、ニュースで見聞きした第一印象とはかなり違うものなのです。

 もう少し詳しく書いておきます。

 171名の死因で最多は交通事故や海水浴での溺死(15件)など「労働現場ではない場所での事故死」で53件。続いて病死が59件。実習中の事故による死亡は28件と少なくはありませんが、その中には「漁船の転覆」など避けられそうにないものもあります。こうした就労上の死亡は平均すると年に5件弱であり、就業者10万人当たりで見ると2~3件となります。ちなみに技能実習生が主に働く産業全体の労災死率を見ると、製造業が10万人あたり1.4人、建設業5.4人、林業97人、農業は9.7人(労災ではなく作業中死亡)となっています。これらの数字と比べて、極端に高い死亡率とはやはり言えません。

 実習生の自殺は6年間で17件ほど、年平均だと3件弱となります。日本人の20代・30代の自殺率は人口10万人当たり15~20人で推移しているので、こちらは一桁少ない数字といえるでしょう。

98%を管理できている移民制度が他国にあるだろうか?

 技能実習生については、失踪が後を絶たないという印象を持つ人が多いのではないでしょうか。実際の失踪数は2017年が5058人、2018年7089人、2019年9052人と年々増加し、ついには年1万人をうかがう状況です。ただし、直近でいえば、40万人以上の実習生がいる中で、失踪する人は1万弱、残りの98%に当たる人たちは実習を受け続けているのです。失踪者の割合は、ここ10年おおよそ2%で安定しています。

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 失踪者についてはさらにいくつか見落としてはいけない点があります。国によって失踪率が大きく異なっており、在留人数が最多のベトナムが、失踪率でも高い数字を出すため、失踪者の7割近くが同国出身者という偏りが見られます。その一因として、ベトナムはすでに先輩失踪者によるシンジゲートができており、違法就労の斡旋などが行われていることが挙げられるでしょう。この当たりの話は、次回にまた詳細を書きます。

 ここまでで一度まとめておきたいのは、98%の人が失踪せずに政府の管理下にいるような外国人就労システムは、相当優れているのではないか、ということです。この問題に早くから取り組んでいる上林恵子氏(法政大学社会学部教授)は2016年発行の「Hrmics24号」のインタビューで「技能実習生制度にはまだまだ問題もあるのですが、欧米諸国のコントロール施策に比べれば、かなりうまく行っている制度だと言えるでしょう」と評価しています。