(写真:123RF)
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 ここまでで、一通り、アセスメント理論を説明してきました。中身や活用上の難点などがわかると、アセスメントというものに、過度な期待をかけてはいけないともお分かりいただけたのではないでしょうか。

 確かに、マッチングとスクリーニングを使い分けて、敗者復活と内定確認を行うなどの有用な使い方がないわけではありません。ただ、その程度なのです。浜の真砂ほどいる世の人たちから、金の一粒を救うなんて芸当は、質問紙程度のアセスメントでは実現可能性は低く、逆に惜しい人材を切り捨てるリスクの方が高いでしょう。

まとまらないと動けない、まとまり過ぎると総倒れ

 ただ、一方で組織にも個人にも行動や考え方の「癖」(=相性の5軸)があり、それが致命的に相反する場合、早い段階で離職が起こるとも書きました。とすると、ある程度、その軸をそろえる努力をせねばなりません。また、指揮命令や情報伝達、もしくは現場から上長への報告を行う場合、上司と部下の動因(人のやる気や心地良さの根源にあるもの、モチベーションリソース)がそろっていた方が、マネジメントしやすいとも書きました。

 つまり、アセスメント(広義の意味。質問紙に限らず、面接や行動観察も含む)により、相性や動因といったものは「そろえられるならそろえるべき」というのが経営の鉄則です。ただ厄介なのは、相性も動因もドンピシャに全てが合うことはまずないし、また合い過ぎると組織がモノカルチャー化してしまうため、ひとたび環境変化が起きた時、総倒れになってしまうという問題もあります。

 本当に、組織風土と個人特性というのは、ややこしい代物ですね。さあ、これにどう答えを出すか。

まさに理に適うトヨタの採用方式

 ここで理論的な説明に入る前に、組織風土と個人特性について、うまい調整をしている実例を1つ挙げることにいたしましょう。それは、あのトヨタ自動車(以下トヨタ)のケースです。10年ほど前に当時同社で人事部門の部長を務めていた友人に直接聞いた話です。

 同社では、新卒採用の時に送られて来るエントリーシートを漏れなく全て読み、選考俎上に載せているとのこと。これは意外なことでしょう。

 同社のような人気企業の場合、数万枚に及ぶエントリーシートが寄せられます。これを人事だけで読みこなすのは不可能。営業や管理部門などで手分けして読むにも、まず、喜んで協力してくれる部署はそんなにないし、しかも、多人数に分散すれば、評価にずれも出ます。だから、まずは大学レベルで絞り込みをかけ、人数を減らしてからエントリーシートを読む企業が多いのです。ただこういうプロセスを経ても、外部から見ている限り、本当は学歴で不合格となった応募学生たちも、「エントリーシート」で落ちたと思う……。こんな使用法なのですね。

 ところが、トヨタは全量本気で読み込むという。その手法は、「全管理職に分配して週末の宿題とする」というのです。確かにトヨタほどの大企業であれば、管理職は数千人もおり、1人当たり数枚読めば、万単位のエントリーシートをさばけるでしょう。また、ノルマや実務を持つ若手だと時間的余裕もありませんが、管理職なら比較的時間を工面しやすく、何より経営の一員なので「採用業務を支援する」責任もあります。唯一問題となるのは、数千人に分配した場合、評価基準にずれが起きないか、という点。ここでトヨタが出す指示が素晴らしいのです。

 「中身は何でもいい。多少の修辞ミスも許す。それよりも、何かしらPDCAサイクルが入っているものは、学歴・専攻関係なく、全部、書類審査をパスさせろ」

 皆さん、トヨタと聞いて、どんな社風や特色が頭に思い浮かびますか?

 たぶん、相当多くの人が秒を待たずに「カイゼン(改善)」を上げるのではなないでしょうか。そう、トヨタは際立ったキャラを持っています。そして、その改善を支えるのが、PDCAサイクル(プラン→ドゥ→チェック→アクション)。この一点特化で、応募者を強力にセグメントするというのです。

 とするとどうなるでしょうか?

 新たに入ってくる社員も必ずPDCAサイクルが身に付いた改善思考になじむ人たちとなる。マネジメントも育成もこの「カイゼン」の絆があるので、スムーズに進む。ただし、それ以外の部分ではあえて厳しい基準を設けていないから、様々な個性が内在するようになる。

 どうでしょう。軸をそろえることと、多様性の両立ができているこの状態。さすがトヨタだと思った次第です。私は、組織風土を保ちながら、多様性を維持するという手法として、このトヨタ方式のことを「キャラ立て」「集約」「分散」と名付けています。