「シニアばかりで若手がいない」「社長がワンマン」――。採用には不利に思えるこんな会社も、欲しい人材を採用できる。カギはターゲットの絞り方。世の中に何百万人もいる「少数派」を掘り起こすには、キャラを立てた採用コピーが不可欠。実例を基に解説する。

(写真:123RF)
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 前回の続きで、採用は「絞れば強くなる」という話をいたします。

 以前リクルートの1980年代の採用で「絞る」話をいたしました。当時は株式会社日本と呼ばれた超安定社会。リクルートの採用ターゲットはその頂点に立つ東大・京大生。つまり、今より安定・重厚長大思考が強い人たちを相手に、あえて「得体の知れない急成長企業」をアピールした事例ですね。確かに、そうした不安定な企業で一攫千金を狙うという人は、東大・京大には数%しかいなかったでしょう。でも、両大学併せて7000人近くの学生がいる中には、そんな天邪鬼(あまのじゃく)が数百人は存在します。彼らの受け皿がほかになかったから、リクルートは採り放題でした。

 「安定志向者」に投網すれば、ターゲットの数は多いものの、採用競合も多いので、結局採れない。一方、絞ればターゲットは減るが、競合はもっと減るので採りやすい。マーケッティングで俗にいう「レッドオーシャン(血の海)、ブルーオーシャン」ロジックですね。

 ここも、理解していない企業が実は非常に多いのです。

50代ばかりの小さな貿易商社

 たとえば、皆さんが以下のようなプロフィールの企業の採用担当になった場合、どのようなターゲットに絞り込み、何を「PR材料」として広報しますか?

小さな貿易商社
  勤務地●蒲田(東京都大田区)
  募集●営業事務 年齢40歳まで
1. 業界では有名な7名の会社。平均年齢54歳。営業職6名、経理の年輩女性1名
2. 駅前。1階は有名レストラン
3. 社費で豪華海外旅行に招待。昨年はハワイに6泊8日。モアナサーフ泊。お小遣い付
4. 残業ほとんどなし。5時即帰宅が基本
5. 有給取得容易。10連休する人も多い
6. 海外との取引が多い。メールや電話で簡単な英語を使うことも可(使わなくてもOK)
7. 海外からの外国人訪問も月1・2回あり(アテンドは不要)
8. 簡単な受発注事務。そこから経理や貿易事務も覚えていける
9. 英会話・簿記学校に勤務時間内に通うことも可能。スクール代は全て会社が支給
10. 営業は日中外出。経理の女性も銀行・回収で2時間は外出。一人で気楽に留守番
11. 経理のおばちゃんは、言葉は多くないが、親切。誰もが「怒ったのを見たことない」という
12. 余裕ある時は事務所で昼ドラを見たりできる
13. 服装自由。ネイル・巻き髪もOK
14. 営業社員は年配だが、うち2名は英語ペラペラ。経理のおばちゃんも多少英語ができる

 一般的にこうした求人だと、仕事がラクで、キレイ・楽しいというネタが喜ばれますよね。それであれば、3、4、5、8、10、12、13などが引き文句として使われそうです。もしくは、この仕事を足掛かりに国際派に転身したいと考える意識高い系の人をターゲットにする手もあります。その場合であれば、6、7、8、9、14を使うのではないでしょうか。

 もし、広告でそうした情報を前面に出せば、そこそこ応募者は集まるはずです。でも、実際に面接でこの会社に足を運んだら、どうなるでしょうか?

 ラクでキレイで楽しい会社に行きたい人であれば、当然、きらびやかな社屋で、エリートが集い、交際相手に恵まれるような、そんなことを夢見てくるでしょう。それが、駅前とはいえ、1階がレストランの俗に言う「下駄箱ビル」。ドアを開けると50代の面々。社員はたったの7人……。ギャップが大きすぎて辞退続出になること請け合いでしょう。

 多分、グローバル志向の意識高い系の人も、「こんなはずじゃなかった」となるはずです。世の中には、こうした応募者は多いため、数を稼ごうとついこちらを狙い、ネタもそちら向けに集めがちですが、これではうまくいきません。

 次に考えられるターゲットは、年配者の多い地味な環境にもなじみやすく、また、時間的拘束が少ないということから、主婦層でしょう。ここでも問題が一つ出てきます。それは「長い社員旅行」。もちろん行かなければよいのですが、「家族経営、社員は全員仲間」という昭和的な匂いがします。果たしてドライな個人主義が許されるか、そこに不安が残ります。