コロナ禍でテレワークが普及する中、コミュニケーションも変革を迫られる。例えば組織メンバーだけに通じる「用語」は組織への帰属感を高める半面、対面での接触が減り、経験や価値観を共有しにくい環境では、孤立感を高める逆効果を生み出してしまう。改善のヒントになるのがメルカリの取り組みだ。

(写真:123RF)

 「昨日のよもやまで例の件のフィジビリやりたいという話が出たんだけど」

 「いいね。ジーエムにも事前にレクしておきます」

 数年前、ある大手人材サービス会社の会議を取材したことがある。会話の猛烈なスピードにも驚いたが、それ以上に面食らったのはその会社独自の「用語」の多さだ。「さっぱり分からない……」。途方に暮れてしまった。

 ベンチャーとしてスタートし、新事業を次々と育てて急成長したその会社は、意思決定の速いスピード経営と、独特な企業文化を特徴とする。会議はその象徴だ。その会社のメンバーだけが理解できる言葉を使うことで、情報共有を迅速に進め、かつ仲間意識も醸成する。

 入社して日の浅いメンバーは、会議に参加しても分からないことだらけ。上司や先輩から指導を受けて仕事の経験を積みながら、用語の意味と使い方を学んでいく。会議で用語を駆使して発言するころには、会社の文化にもすっかりなじんでいるというわけだ(ちなみに「よもやま」はよもやま話のような目的を決めないミーティング、「フィジビリ」は新規事業の前段階の実験的な取り組み、「ジーエム」は事業部長を指す、らしい)。

テレワークで「孤立感」が深まる

 この会社に限らず、多くの組織には程度の差こそあれ独自の用語がある。それを理解することが組織のメンバーである証しとなり、組織への帰属意識につながっていく。

 だが新型コロナ対策でテレワークが普及し、コミュニケーションが変わる中、こうした状況も変わりつつある。毎日オフィスにいれば周囲の様子が見え、会話も耳に入ってくる。「習うより慣れろ」で用語も身に付くが、在宅ではそうもいかない。普段耳にする情報は格段に減る中で、オンライン会議では訳の分からない用語が飛び交う。孤立感が募っても仕方ない状況だろう。  

 総合転職情報サイト「マイナビ転職」が2021年6月に、2021年に新卒入社した男女(新入社員)800人を対象に行った「2021年新入社員の意識調査」では、「会社・組織の一員であると意識することはあるか」の質問に対して「意識している」と回答した割合は、調査時点でフルリモート勤務している人が58.9%で、全体の68.1%に比べ低い結果となったという。用語が分からないことだけが理由ではないだろうが、原因の一つには含まれるのではないだろうか。

「やさしいコミュニケーション」が必要な理由

 組織内のコミュニケーションの壁をなくして、メンバー誰もが分かりやすく快適に意思疎通できる――。そんな環境づくりに取り組んでいるのがメルカリだ。グローバル化を進める同社では、40カ国以上から社員が集まり、東京オフィスのエンジニアリング組織では外国籍の社員が半数を超えるという。多様な人材が快適に働き、力を発揮できるようにするためにダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進するなかで、重視するのが「やさしいコミュニケーション」だ。

 「やさしい」は「優しい」と「易しい」をかけている。日本語を母国語としない社員でも分かりやすいように、または通訳やAI(人工知能)による翻訳を介する場合も正確に訳せるように、表現を工夫することを推奨している。

 例えば、こんな表現は「やさしくないコミュニケーション」とされる。

 「さらっと説明しますね」  

 対して「やさしいコミュニケーション」はこうだ。

 「簡単に短く説明しますね」

 「さらっと」という言葉は実は抽象度が高く、ぴったり当てはまる英語表現もない。これを「簡単に」「短く」と分解することで日本語に不慣れな外国人社員にも理解しやすく、“I will give a quick explanation.”という簡潔な英語にも訳せるようになる。

 同社のD&Iは、世界中から最先端のデジタル人材を集める企業ならではの取り組みではあるが、多くの企業にとってコミュニケーション課題の解決のためのヒントを含んでいる。組織のメンバーが快適に働き、力を発揮するうえでは、コミュニケーションの“参入障壁”を減らすことが重要だという点だ。これはテレワークだけの問題ではない。例えば市場の変化に柔軟に対応するために、縦割り組織を超えた部門横断でプロジェクトを作る、社外の人材とチームを組んでオープンイノベーションを推進する――。こうした取り組みでは、誰もが簡単に理解できる言葉を使い、明瞭なプロセスで議論を進めていくことは不可欠だろう。

 「CHO Summit 2021 Autumn」では、「イノベーション創出に向けた社内コミュニケーション戦略」と題して、サイバーエージェント常務執行役員 CHOの曽山哲人氏とメルカリのDiversity & Inclusion Teamマネージャー寶納弘奈氏が登壇するパネルディカッションを開催する。一人ひとりの力を引き出し、イノベーションを生み出すコミュニケーションの在り方を議論する。